九州大学大学院農学研究院
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生産基盤環境保全(Agro-production and Environmental Conservation)ユニット

東南アジア新興国では、急速な人口増加と経済発展により、水質劣化や土壌劣化、生物多様性の喪失など、農林水産業の生産基盤に係る環境問題が深刻化している。また、気候変動・地球温暖化に伴う海水面上昇や降水量や降水パターンの変化は、生産基盤の機能や生態系のバランスに影響を及ぼすなど、安定した生産を脅かす深刻な問題となっている。日本が戦後、経験してきた農村地域での生産基盤の機能劣化や生物多様性の喪失を、東南アジア新興国では気候変動・地球温暖化の影響も相俟って、近年、より深刻な水土環境の悪化を伴って急速に経験しつつある。高い生産性を維持しつつ、適切な環境評価に基づいて、生産基盤の水土環境の保全を図ることが喫緊の課題となっており、中長期的な視点に基づく対応が求められている。これらの諸問題の解決には、圃場スケールを対象とした研究から、地域スケール、広域スケール、流域圏スケールまでの一貫したマルチスケール研究の組織的展開が必要不可欠であり、また、アジアモンスーン地域特有の気象、海象、水文、土地利用、資源利用、流域などの特性や、新興国で共通の特徴である各種データの寡少性を反映した手法開発が求められている。
本ユニットでは、農学研究院、熱帯農学研究センターが有する農林水産業の生産基盤に係る研究資源を結集し、ベトナムの二大国際河川流域圏である北部・紅河流域圏と南部・メコン川流域圏をコアフィールドとして、東南アジア流域圏における「生産基盤環境保全」に関する研究教育拠点の形成を目指す。

  • 水環境保全学研究分野(Water Environment Conservation)

    東南アジア新興国では、農薬や化学肥料の投入量の増大や都市化・混住化の進行に伴う生活系排水の増大により、農村地域や閉鎖性水域での水質汚濁や水圏生態系における生物多様性の喪失が急速に拡がっている。高い農業生産性を維持しつつ、陸域から排出される汚濁負荷を削減するとともに、下流の閉鎖性水域の水環境保全を図ることが東南アジア新興国では喫緊の課題となっている。これに対して、流域圏における水環境は、陸域上流から下流の閉鎖性内湾に至る流域圏の物質フロー系によって形成されるため、水環境保全のためには、陸海域流域圏全体の水循環系と物質循環系を総合的に俯瞰する、いわゆる統合的な流域圏水環境管理が持続的な流域圏環境管理計画の策定において必要不可欠となる。また、水環境の物理的・化学的な変化に対する生物の応答を定量的かつ継続的にモニタリングすることにより、水環境および水圏生態系の保全目標の設定や達成度の定量評価が可能となる。本研究分野では、地域密着型の研究教育を展開しているベトナムのハノイ農業大学や、水資源大学ハノイ校・ホーチミン校のスタッフと連携し、深刻な水質汚濁と生物多様性喪失が進行中の北部・紅河流域圏と南部・メコン川流域圏を対象に、流域圏水環境統合管理手法を開発するとともに、流域圏水環境に関する研究教育の拠点形成を目指す。ベトナムで得られる成果は、東南アジア新興国の他流域圏にも活用可能であり、学術的意義,波及効果は大きい。

  • 土壌環境保全学研究分野(Soil Environment Conservation)

    東南アジア新興国では、近年の急速な人口増加により山地斜面が農地に転換され、斜面農地では、雨季の豪雨により土壌侵食や農地崩壊が多く発生している。平野部では、工場からの未処理の廃水が河川に大量に流れ込み、この河川水が灌漑に使われる農地では、土壌汚染が進行している.海岸部では、地下水の過剰な汲み上げによる地盤沈下,海水面上昇などで海水が農地に侵入し、土壌塩害が発生している。さらに、ベトナムのメコンデルタ,紅河デルタでは、地層が元々ヒ素を含むために、地下水・土壌のヒ素汚染が発生している。このように、東南アジア新興国、特にベトナムでは,土壌環境がさまざまに劣化しており、このような問題は、早急に解決しなければならない。
    本研究分野では、土壌環境保全学分野の研究教育では歴史のあるベトナム・ハノイ農業大学、現在同分野の研究を強力に行っているベトナム土壌肥料研究所、南ベトナム農業科学研究所等と連携し、ベトナム北部および南部を対象にして、土壌環境保全にかかわる諸問題を解決する手法を開発するとともに、土壌環境保全に関する研究教育の拠点形成を目指す。ベトナムで得られたこれらの成果は、他の東南アジア新興国にも応用可能であり、その学術的意義,波及効果は大きい。