平成18年度 国内・国外調査実施報告                                        

生物機能科学部門 助教授・中山二郎   
1.出張期間:   平成19年 1月 4日 〜 平成19年 1月 9日( 6日間)   
2.調査大学等 
(1)国名:フランス 
(2)大学・部局等:L’institut national de la recherché agronomique (INRA)(国立農業研究所)           Microbiology and the Food Chain Department 
(3)所在地:78352 JOUY-EN-JOSAS CEDEX  
3.調査報告(本プログラムへの効果等、別紙可・別紙の場合は「別紙」と記載))
今回は、Prof. Dusko Ehrlich率いるMicrobiology and the Food Chain Departmentを中心に訪問した。Microbiology and the Food Chain Departmentは9つのチームで構成されている。そのうち、特に①Genome Analysisチーム(Dr. Alexei Sorokine)、②Lactic Acid Bacteria-Metabolism(Pierre Renault)チーム、③Lactic Acid Bacteria-Study of Stressチーム(Dr. Emanuelle Maguin)の3つのチームを詳細に視察した。①    本プログラムへの参加院生である本学・西口賢三君が3月末まで研究するチームである。本チームは、これまでに枯草菌の全ゲノム配列解析を行っているが、そのプロジェクトの延長として、仏・米・日の3カ国間での共同プロジェクトとしてミニマムゲノムプロジェクトを遂行中である。枯草菌の生育に必須な最小遺伝子単位を同定するプロジェクトである。②    本チームでは、生体に及ぼす効能を指標に種々発酵食品を調査するプロジェクトを計画中とのことである。日本でも伝統的発酵食品の機能性を新たに調査しなおそうというプロジェクト(例えば、生物工学会スローフード研究会など)が進行中であるので、今後、日仏での情報交換できればよいと考えている。③    本チームでは、腸内フローラの国際メタゲノムプロジェクトを計画・実施中である(添付資料参考)。腸内細菌中の機能性遺伝子を網羅的に調査する本プロジェクトは今後腸内細菌学分野の中枢となると考えられ、我が国としても、このようなプロジェクトには密に貢献するべきと思われた。 フランスは先進国であるとともにら農業・酪農国でもある。チーズ、ヨーグルトなどの伝統的な発酵食品の研究から、それらを摂取したときの生体反応を網羅的に調査することにより、安全・安心そして高機能の食品を開発する科学基盤を整備しているようである。今回の視察で得たこのような体験を、本プログラムでの教育に活かしていければと考えている。  
4.その他  
(1)参考資料添付 訪問先で計画立案中のメタゲノムプロジェクトの紹介記事”Mapping the human intestinal metagenome”。

生物機能科学部門 助教授・本城賢一

1.出張期間:   平成 19 年 1 月 4日 〜 平成19 年 1 月 10 日( 7 日間)
2.調査大学等
(1)国名:ドイツ
(2)大学・部局等:Universität Osnabrück, Fachbereich Biologie/Chemie(オスナブルク大学,生化学科)
(3)所在地:D-49069 Osnabrück, Germany

 3.調査報告(本プログラムへの効果等、別紙可・別紙の場合は「別紙」と記載))

本調査で訪問したオスナブルク大学生化学科には細胞生物学専攻および生態生物学専攻の二つの専攻があり,微生物,植物,動物と様々な生物を対象とし,基礎的な教育・研究を行っている。この中で,植物生理学研究室のScheibe教授は,植物の葉緑体に局在する酵素群による酸化還元調節機構を中心として植物のストレス耐性機構の解明を推進している。今回の訪問により,Scheibe教授との討論により,出張者らが推進を進めている食品保蔵を目的とした植物の耐凍性獲得には,葉緑体の酸化還元酵素群の活性化が重要であるという結論に至った。今後,約2ヶ月間,同行した本学大学院生・町田 豪 君が現地に滞在し,葉緑体の酸化還元酵素群(グルコース6-リン酸脱水素酵素およびチオレドキシン還元酵素)を対象とした植物の耐凍性獲得機構の解明,すなわち,食品の凍結貯蔵性の向上のための基礎研究を実施する。これによりフードサイエンス教育・研究を世界的な視野で展開が図れると考えられる。

4.その他
(1)参考資料添付  調査大学での参考資料等

生物機能科学部門 助手・水野谷 航

1.出張期間:   平成19年 2月 24日 〜 平成19年 3月 7日( 12日間)
2.調査大学等
(1)国名:アメリカ合衆国
(2)大学・部局等:①マサチューセッツ大学 ②ウエストバージニア大学 ③ケンタッキー大学
(3)所在地:①55 Lake Ave North Worcester, MA 01655
       ②1 Medical Center Drive, P.O. Box 9227 Morgantown, WV 26506
       ③800 Rose Street Lexington, KY 40536
3.調査報告(本プログラムへの効果等、別紙可・別紙の場合は「別紙」と記載))

 今回の出張では、米国の①マサチューセッツ大学、②ウェストバージニア大学、③ケンタッキー大学のMedical Schoolを中心に訪問した。彼らの研究は、骨格筋と平滑筋をターゲットとしているが、これらの研究課題は食肉の生産性にも非常に関係が深い。現在のところ食糧生産に応用できる段階ではないが、将来的には大いに期待できると考えている。

①マサチューセッツ大学
本プログラムにより本学・佐藤祐介君が3月末まで留学している大学である。研究室はUniversity of Massachusetts Medical SchoolのCell Dynamics Researchに所属するDr. Mitsuo Ikebeの研究室である。University of Massachusetts Medical Schoolは昨年RNAiの発見によりノーベル賞を受賞したDr. Craig Melloが所属する大学でもある。Dr. Ikebeは平滑筋収縮タンパク質の機能解析を主要な研究テーマとしている。筋収縮タンパク質の調節機構については、不明な点も多く、Dr.Ikebeは収縮タンパク質分子の超高精度な測定手法を立ち上げ、これにより収縮タンパク質の分子的な機構の一端を解明しようとしている。現在この研究室では10人以上のポスドクを雇用している。佐藤君はポスドクの一人Dr.Umezakiの実験の補助をしている。内容はDr.Ikebeが新規発見したタンパク質の昆虫細胞における強制発現である。

②ウェストバージニア大学
West Virginia Universityはウェストバージニア州のMorgantownという街にキャンパスを広げる大学である。街に点在するキャンパスを全長約6kmのMorgantown Personal Rapid Transitという鉄道が結んでいる。今回はSchool of MedicineのStephen Alway教授を訪ねた。彼の主要研究テーマは、骨格筋の老年性萎縮症の防止である。現在ラボにポスドクはいないもののPh.Dの学生約10人が研究にあたっていた。Dr.Alwayは骨格筋組織のアポトーシスが老年性の筋萎縮の一因であることを見出し、それに関わる分子としてInhibitor of differentiation protein-2(Id2)を発見し機能解析を進めている。またこの生理変化には酸化ストレスも深く関わっていることを現在まで突き止めている。なお九州大学農学部付属農場の後藤助教授が以前このラボで短期留学していた。

③ケンタッキー大学
University of Kentuckyはケンタッキー州第2の都市レキシントンにキャンパスを持つ。レキシントンにはトヨタの工場があり、多くの日本人が住んでいるようである。今回の視察では、college of medicine, department of physiologyのKaryn Esser教授を訪ねた。彼女の研究課題の一つは筋肥大に関わる分子シグナル経路の探索である。mTORは骨格筋においてIGF-1やインスリンのシグナル伝達に関わるkey分子である。現在このmTORに関わるシグナル経路の解明を目指している。もう一つのテーマは、筋肉の概日リズムの研究である。時計遺伝子であるCLOCKとBMAL1が筋特異的転写因子MyoDの発現を調節していることを世界で初めて発見した(未発表データ)。午後からは、学内のSkeletal Muscle Biologyのグループセミナーに参加させて頂いた。また、彼女とラボのスタッフの前で、私が現在取り組んでいる研究課題を簡単に発表させて頂いた。

 彼らがよく参加する国際学会も確認したので、今後これらの学会を通じで継続的に情報交換をしていく予定である。総体的な印象として、米国の生理学における研究ではターゲットタンパク質の培養細胞での強制発現、遺伝子組換えマウスの使用が当然のように行われている。またRIの使用について日本より規制が少ない点も特徴であった。しかしながら、以上のような実験手法、実験装置は九州大学を含む日本の研究機関でもよく使われている手法であり、その点では日米の差は少ないように感じた。技術的な面よりもポスドクやPhDの学生の数が日本より充実しており、それが研究成果の差につながっているように感じた。現在の米国の研究事情として国家的な研究費の削減が、各大学、研究者に負担を与えているようである。また、Dr.Ikebeによると、PhDの学生はポスドクと同様、ラボの研究費から給料を貰うのが普通らしい。そのため最近では、ポスドクとPhDの雇用が競合するケースがあるらしく、結果として研究能力で劣るPhD学生の受け入れに消極的になる傾向があるとのことであった。今回の視察で世界の科学研究をリードするアメリカの複数の研究現場を直接体験できたことは非常に良い刺激になった。この経験を、本プログラムでの教育にぜひ活かしていきたいと思っている。

4.その他
(1)参考資料添付

 訪問先の大学のパンフレット、ホームページのトップページを参考資料として添付する。

農業資源経済学部門 助教授・福田 晋
 1.出張期間:   平成19 年2 月 13日 ~ 平成19 年2月 18日(6日間)
 2.調査大学等
 (1)国名:ミャンマー
 (2)大学・部局等:Yezin Agricultural University
 (3)所在地:Yezin,  Pyinmana Township, Myanmar

  3.調査報告(本プログラムへの効果等、別紙可・別紙の場合は「別紙」と記載))

 Yezin Agricultural Universityは、ミャンマーにおける唯一の農業系大学であり、多くの農業技術者や政府官僚を輩出している。その大学における農業経済学の教育体系を調べると、農業生産とそこに関わる学問領域のみに重点が置かれており、当然、農業経済学分野における教育体系も生産経済学を中心としたカリキュラムとなっている。
 しかしながら、学生のニーズは農産物の流通や食品加工にも向けられており、さらに、農業界だけでなく主要な食品産業部門である米の取引業者事業協同組合や米精米業者事業協同組合でも、大学における食品流通、食品加工などへの要望は極めて高いことが調査を通じて明らかとなった。
 今回の調査において、九州大学の世界戦略的フードサイエンス教育プログラムの概要について説明したところ、極めて高い関心を示し、学生、大学院生のみならず現役教員スタッフもそのようなカリキュラムの必要性を唱えていた。
 今後、農業経済資源経済学専攻においても、開発途上国からの留学生が一層増えることが予測されるが、本プログラムの中の学際的癒合プログラムは魅力あるものになると考えられる。
本プログラムのような融合型カリキュラムが留学生教育にも活かされる必要のあることを痛感した。

  4.その他
(1)参考資料添付     調査大学での参考資料等

農業資源経済学部門 助教授・堀田和彦

1.出張期間:   平成19年3月5日 〜 平成19年3月10日(6日間)
2.調査大学等
 (1)国名:  台湾
  (2)大学・部局等: 国立中興大学(鄭教授),および台北市,台中市の農家,市場など
  (3)所在地: 台中市402国光路250号(国立中興大学)
3.調査報告(本プログラムへの効果等、別紙可・別紙の場合は「別紙」と記載))

 国立台湾中興大学において,鄭教授と昨今の台湾における生産者と消費者の関係性の変化に関する協議を行い,さらに,今後実施を予定している消費者調査(デプスインタビュー,半構造的インタビュー,アンケート)について打合せを行った。
 また,台中市近郊および台北市において,農家,伝統的市場,農協(信義農協),生協(主婦連盟),小売店(Orange Mart,有機緑地など)を調査し,関係性マーケティングの現状を調査した。台湾では,農産物直売所の発展やダイレクトマーケティングについては未発達であるものの,食の安全安心に関する関心は高まりを見せている。今後継続的に本研究を進めていくことは,日本の農業および台湾の消費者にとって,非常に有用であることが確認された。

農業資源経済学部門 助手・新開章司

1.出張期間:   平成19年3月5日 〜 平成19年3月10日(6日間)
2.調査大学等
(1)国名:  台湾
(2)大学・部局等: 国立中興大学(鄭教授),および台北市,台中市の農家,市場など
(3)所在地: 台中市402国光路250号(国立中興大学)

3.調査報告(本プログラムへの効果等、別紙可・別紙の場合は「別紙」と記載))

 国立台湾中興大学において,鄭教授と昨今の台湾における生産者と消費者の関係性の変化に関する協議を行い,さらに,今後実施を予定している消費者調査(デプスインタビュー,半構造的インタビュー,アンケート)について打合せを行った。
 また,台中市近郊および台北市において,張文陵氏のコーディネイトのもと,農家,農産物直売所,農協,小売店を調査し,関係性マーケティングの現状を調査した。台湾では,農産物直売所の発展やダイレクトマーケティングについては未発達であるものの,食の安全安心に関する関心は高まりを見せている。
他方,農業の生産サイドは都市化が進む中で,規模拡大は進んでおらず,零細な複合経営が太宗であるが,逆に都市圧を都市益として直売などによる新たな経営展開の可能性を秘めているともいえる。
今後本研究を継続的に進めていくことは,日本および台湾の農業,消費者にとって,非常に有用であることが確認された。

 

生物機能科学部門 教授・園元謙二

1.出張期間:   平成19年 3月15日 〜 平成19年 3月21日(7日間)
2.調査大学等
(1)国名:フランス
(2)大学・部局等:3/15-3/17 Universite de Bretagne-Sud・Faculty of Science
                            (南ブルターニャ大学・理学部)

          3/18-3/20 L’institut national de la recherché agronomique
             [INRA]     (国立農業研究所)
(3)所在地:3/15-3/17 BP92116  56321 LORIENT CEDEX, FRANCE
       3/18-3/20 78352 JOUY-EN-JOSAS CEDEX, FRANCE

3.調査報告(本プログラムへの効果等、別紙可・別紙の場合は「別紙」と記載))

 訪問した研究機関は上記の2箇所であるが、フランス国立農業研究所(INRA)については中山二郎准教授から報告されたので、南ブルターニャ大学について報告する。南ブルターニャ大学はフランス北西部に位置し、約8,000名の学生が在籍する新しい総合大学であり、Lorient, Vannes, Pontivyの3つのキャンパスに分かれている。Lorient, Vannes の2つのキャンパスにはそれぞれ学長室があり、Lorientはその中で最も多くの学部を有するキャンパスである。

 先ず副学長(国際交流担当)のProf. Jean Peetersを訪問し、南ブルターニャ大学の概要説明を受けた。その後、九州大学、特に農学部(学府、研究院)、や世界戦略的フードサイエンス教育プログラムの該当する資料を提示しながら説明し、今回の訪問の趣旨を伝えた。これまで両大学は交流がなかったが、このプログラムの当該学生・塩屋幸樹君の留学を機に交流を深め、先ずは学部間交流協定(案)を作成することで合意した。これまで、九州大学農学部がフランスの交流協定校を持っていないことから鋭意に進めていきたいと思う。

 次に、当該学生が研究しているFaculty of Science のDr. Alain Dufourの研究室(Laboratory of Marine Biotechnology and Chemistry, LBCM)を訪問した。Facultyの下の組織はLaboratoryで、日本流では学科に相当する規模であり、Microbiology, Virology, Biochemistry, Molecular genetic, Molecular microbiology, General biologyなどの生物系とChemistry, Organic chemistry, Physical chemistry, Polymer chemistry, Analytical chemistryなどの化学系を専門とする約20名の教職員で構成されている。LBCMの主要な研究トピックスは「Biofilm-Biotechnology」であり、船舶へのバイオフィルム防止を研究目的として、上記の複数の専門分野から以下のような具体的な取り組みを行っている。

 1.      バイオフィルム形成時のbacterial communication

2.      バイオフィルムの形成メカニズム解析

3.      汚れ止め塗料の開発(船舶へのバイオフィルム形成阻害)

4.      バイオフィルムが形成しにくい新規素材の開発

 バイオフィルムは日本においても盛んに研究されているが、一つの建物でこのような生物と化学の両面からの総合的な研究体制はない。研究資金を提供している会社には、素材や化学関連企業だけでなく食品関連企業もあり、食品物流の関連性が容易に想像された。本プログラムでの教育には望ましい食品の製造研究だけでなく、それらの輸送などの点も重要であることを再認識した。4.その他

   (1)参考資料添付

     調査大学での参考資料等

1.      訪問先のDr. Alain Dufourの研究室で2つの地元新聞社の取材を受けた。九州大学の紹介や今回の調査の趣旨などが解説されている。
2.      南ブルターニャ大学およびLBCMの資料。

 

生物機能科学部門 教授・ 今泉 勝己

1.出張期間:   平成19年 3月15日 〜 平成19年 3月17日( 3日間)
2.調査大学等
(1)国名:      タイ王国
(2)大学・部局等:  チェンマイ大学農学部
(3)所在地: Chiang Mai University 239, Huav Kaew Road, Muang District, Chiang Mai, Thailand, 50200
3.調査報告(本プログラムへの効果等、別紙可・別紙の場合は「別紙」と記載))

タイ・チェンマイ大学農学部長及び同学部に置かれているアワプランドプログラムを推進しているドイツホーエンハイム大学教員と教員の交流及び世界戦略的フードサイエンス教育プログラムについて意見交換を行った。本プログラムの遂行について3国間の協力について積極的に係わることで合意を得ることができた。