研究内容

周期的環境におけるユーストレス(快ストレス)の脳内メカニズム

ストレス反応とは本来、身体の内外における変化に対して恒常性を保つための適応反応であり、中立的なものです。しかしストレッサーや認知的な違いに応じて、ネガティブな影響(ディストレス)やポジティブな影響(ユーストレス)を身体に及ぼします。現代社会はストレス社会と呼ばれますが、これは疾患憎悪や生体機能の破綻に関与するディストレスです。一方で、ポジティブなユーストレスは疾病への耐性強化や治癒力加速に繋がりますが、生体機序は不明です。

私たちの研究室では、周期的な環境変化をうまく利用すると、うつ・不安様行動が低減できることや好奇心行動が増加することを独自に見出しました。この「ユーストレスマウスモデル」を用いて、ユーストレス下における生体制御系の網羅解析を行い、人工制御技術の創出や人への応用を目指しています。

本研究は、科学技術振興機構 創発的研究支援事業により実施しています。

社会的時差ぼけによる体内時計の脱同調メカニズム

体内時計(概日時計)は約24時間周期で刻まれる内因性の生物時計であり、脳の中枢時計と臓器の末梢時計からなります。現代社会ではシフトワークや不規則な生活、慢性的な夜型生活などにより、体内時計の乱れとそれにともなう生活習慣病疾などのリスク増加が問題となっています。

特に日常生活で生じやすい体内時計の乱れとして、「社会的時差ぼけ」があります。週末は夜ふかしをして昼間に起床し、平日は授業や勤務のため早朝に無理やり起床するようなパターンです。体内時計のリズムと社会生活のリズムがずれてしまい、時差ぼけの状態になってしまいます。近年の研究で、社会的時差ぼけと肥満や心疾患、認知機能との関連が解明されてきました。

私たちは明暗周期を週のリズムでずらした社会的時差ぼけのモデルマウスを用いて、臓器・遺伝子ごとのリズムのずれ(脱同調)や加齢との関連などを調べています。また社会的時差ぼけを予防改善する栄養療法の開発を目指しています。

時間栄養学と脳機能およびアミノ酸

体内時計と食事や栄養との相互作用を研究する学問として、時間栄養学が発展してきました。私たちの研究室では、特に食事時刻と脳機能の関連や、アミノ酸栄養による生体機能の調節について、マウスモデルや細胞モデルを用いた研究を行なっています。

1. 食事時刻と脳機能

多忙な現代社会では、朝食欠食や遅い時間の夕食などの不適切な食生活になりがちです。不適切な時刻の食事は、概日時計を破綻させる一因であり、肥満や糖尿病、精神疾患のリスクを高めてしまいます。近年、適切な時間帯のみに摂食を限定する時間制限摂食により、体重増加やメタボリックシンドローム症状の予防・改善ができることが報告されています。

私たちの研究室では、朝食をとり夜は休息する「朝型摂食パターン」と、朝食をとらず休息期に夜食をとる「夜型摂食パターン」のマウスモデルにおいて、記憶・学習行動や神経形態への影響を調べています。また、多忙な現代社会では生活スタイルや勤務・介護等により、不規則な食生活にならざるを得ない場合が多いことも事実です。私たちは、夜型の食事リズム下でも脳機能を低下させない機能性食品の探索も進めています。

2. アミノ酸栄養による生体機能の調節

アミノ酸はタンパク質の構成成分となるのみではなく、様々な機能性を有します。私たちはこれまでに、体内時計の光リセットを調節するアミノ酸や、ホルモンの日内変動を調節するアミノ酸などを解明してきました(Yasuo et al., Journal of Nutrition, 2017; Matsuo et al., Chronobiology International, 2015)。さらにアミノ酸の生体機能調節メカニズムについて、培養細胞を用いた研究を行なっています。

哺乳期の日長調節による成長・代謝および脳神経発達の調節

生物は季節の変化を日長から読み取り、行動や代謝、免疫、繁殖機能などを調節します。このしくみは光周性と呼ばれ、人間では季節的に気分が変動する季節性感情障害(冬季うつ病)と関連します。また、出生季節により成長後の精神疾患や神経疾患のリスクが異なることが世界中で報告されています。

私たちの研究室では、これまでに冬季うつ病のモデルマウスを用いて、メカニズムの解析や栄養療法の解析を行なってきました(Tahiguch et al., Behavioural Brain Research 2021; Otsuka et al., Psychoneuroendocrinology, 2014; British Journal of Nutrition, 2015)。近年では、胎児期から哺乳期における日長が成長速度や脳神経発達に影響を与え、成長後の体重、情動行動、記憶・学習行動を変化させることを見出しました(Takai et al., Neuroscience, 2018; Uchiwa et al., Physiological Reports, 2016)。このような初期成長期の日長による生体プログラミングのメカニズムについて、DNAメチル化やヒストン修飾といったエピジェネティクな観点から解析しています。また、黒毛和牛を用いて哺乳期の日長を調節することにより、産肉性や肉質を制御する「光ビーフプロジェクト」も進めています。

九州大学大学院農学研究院

代謝・行動制御学研究分野

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