九州大学大学院農学研究院
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ベトナム・ハノイ農業大学内に九州大学大学院農学研究院ベトナムサテライトキャンパスを設置

農学は地球規模の広がりをもつ学術であり、農学教育にはグローバルに活躍できる人材養成が求められている。とりわけ長期的な展望のもとに相互互恵の立場から国際標準や国際的なルール作りを主導できる人材の養成は重要である。既に外国の大学や研究機関と学術交流協定等を結び、交換留学制度などの多様な国際交流教育プログラムは実施されているが、国際派の指導的な専門家を養成するには至っていない。このためには、国際農学のための新たな海外拠点を設け、実践的なグローバル教育を追求すべきである。特に、グローバル教育を効果的に進める上では、国際コミュニケーションシップ制の構築により実体験教育の場を整備充実し、地球をキャンパスとした大学院教育を展開することが求められる。
九州大学大学院生物資源環境科学府では、平成6年より留学生のための「国際開発研究特別コース」(以下、特別コース)を開設し、すでに修士課程、博士後期課程合計199名の修了者を世界へと輩出している。特に、平成18年度「国費外国人留学生(研究留学生)の優先配置を行う特別プログラム」に「ブロック・モジュールによる生物資源環境科学プログラム」が採択され、1ヶ月間で2単位を取得できる集中講義型ブロック・モジュール方式により体系的カリキュラムを整備し、毎年、修士課程4名、博士後期課程に7名の国費奨学生を受け入れている。他方、私費留学生として同コースにJICAの人材育成支援無償(JDS)の合計32名(ベトナム8,ミャンマー6,カンボジア6,ラオス6)が修士課程に在籍している。最近5年間の大学院生物資源環境科学府の外国人留学生数のうち、ASEANからの留学生は、修士課程で平均63%、博士後期課程で平均34%を占める。ASEANの中でも、ベトナムからの留学生が最も多く、特別コースに入学した外国人留学生中、ベトナムからの留学生は、最近後5年間の平均で、修士課程の30.4%、博士後期課程の11.1%を占める。
一方、大学院生物資源環境科学府は、平成22年度より、特別経費(プロジェクト分)『生物資源環境科学オープンプロブレムスタディープログラムの展開:農学の抱える包括的実問題の集中学習による実践型副専攻教育プログラムの充実』が採択され(~平成26年度)、年2回、外国人講師を含めて、集中講義を実施している。このプログラムは、大学院生用のプログラムであるが、3つの副専攻において、実問題解決の科学Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ(各2単位)として単位化している。ここでは、座学を受講させるだけではなく、ディベートを通して、各実問題の解決の糸口、プロトコールを探らせ、自分の主専攻の知識・技術が解決に向けてどのように貢献できるのかを考えさせ、最終的に、問題解決策のプレゼンを行い、レポートを提出させている。これは、日本語が中心であるが、現在、外国人大学院留学生とクラス共有させて、英語でディベート等をさせるように計画中である。これまで、取り扱った実問題は、日本・ASEAN農学を取り巻く未解決・最重要な問題であり、具体的には、①農薬使用による社会的利益と損害を考慮し、今後のリスク管理をどう行うべきか?、②遺伝子組換え(GM)作物の是非、③水産から考える生物多様性、④日本農業の将来を考える:安心・安全かつ持続可能な食料確保のために農産物貿易の自由化は必要か?、⑤水資源問題をみんなで考える:水資源の確保、利用、枯渇や水質汚染など、である。今後も、環境科学の分野では、①農耕地の重金属汚染(土壌劣化)、②森林保全(森林伐採)、③気候変動(砂漠化、CO2保障等)等、生物資源分野では、④生物資源確保、⑤生物多様性維持等、フードシステム分野では、⑥食料確保(持続的供給)、⑦食の安心・安全等、国際開発分野では、⑧貿易自由化(TPP問題)、⑨生産流通システムデザイン等、バイオテクノロジー分野では、⑩生物資源の効率的なバイオエネルギー転換、⑪遺伝子組換え作物 等、日本・ASEAN農業と密接に関連する実問題が挙げられる。これらのテーマに関して、ASEANの学生とともに、英語による課題解決型プログラム(アクティブラーニング)を修得させることで、自分の進むべき専門知識・技術が国際的な実社会でどのように関与していくのかを知ることができる。
また、研究面においては、過去10年の取り組みとして、平成20−22年度文部科学省国際化拠点整備事業「アジア農学国際教育プラットフォーム」、平成22−25年度JICA草の根技術協力事業「ICTによる低辺層農民所得向上プロジェクト」、平成23−25年度JICA技術協力プロジェクト「タイバック大学強化事業」、平成22−27年度JST-JICA地球規模課題対応国際科学技術協力事業「ベトナム北部中参観地域の作物開発」、平成24−26年度JSPSアジア・アフリカ学術基盤形成事業「東南アジア新興国流域圏における水環境統合管理ツール」、平成18、19年度文部科学省国際協力イニシアティブ事業「インドシナ地域の大学アウトリーチ」、平成18、19年度JBIC提案型調査事業「サバ州貧困削減パイロットプロジェクト」、平成17-20年度東芝国際財団「東ティモール国立大学農学部支援」、平成18-20年度JSPSアジア・アフリカ学術基盤形成事業「ハイブリットイネと生態系の科学」、平成21年度JSPS若手研究者交流支援事業「農学研究教育の多重的フォローアップ」など豊富な実績を持つ。特に、ベトナムとの共同・協力研究は、研究室レベルも含めて、過去5年間に、20以上あり、農学研究院は、現地ニーズに即したフィールド研究を精力的に実施している。
以上の背景を踏まえ、学術交流協定等を締結しているベトナム・ハノイ農業大学(Hanoi University of Agriculture)内に、九州大学大学院農学研究院ベトナムサテライトキャンパスを設置する。設置規模としては、講義室(1 (20名程度収容、双方向遠隔講義システム装置設置))、実験研究室(2)、教員・研究員室(2)程度である(ハノイ農業大学と事前交渉済み)。なお、このサテライトキャンパスは、法令上、大学院設置基準(昭和49年文部省令第28号)を満たすものではなく、海外オフィスの扱いを想定している。サテライトキャンパスで行う具体的な教育・研究内容は下記のとおりである。

  1. 九州大学大学院生物資源環境科学府国際開発研究特別コースに入学した学生の一部の講義の実施(双方向遠隔講義システムを用いた座学講義も含む)。
  2. 九州大学大学院生物資源環境科学府国際開発研究特別コースに入学した学生の修士あるいは博士の研究の実施(特にフィールド研究)、農学研究院の教員による現地での研究指導。
  3. ハノイ農業大学と九州大学大学院生物資源環境科学府の相互乗り入れ講義(環境保全型農業、実問題解決の科学等)・実習の実施(単位認定は、各々の大学の認定基準に従う)。
  4. 九州大学大学院生物資源環境科学府所属の日本人大学院生のフィールド研究の実施
  5. 研究については、ASEAN関連の国際プロジェクト競争的資金獲得者が優先的に実験研究室を使用する。現在のところ、環境適応型イネ新品種の育成(第1期)、水資源研究(第2期)を想定している。