今後の予定

キックオフシンポジウム&公募説明会 7/22月曜日 午後
会場:東京大学弥生講堂(ハイブリッド)

領域概要

領域代表

有村 慎一

東京大学大学院
農学生命科学研究科 教授
Webサイト

 この半世紀の生物学の進歩には、ゲノム配列解読に加え、その改変技術の進歩が大きく貢献しています。かつては優良形質の選抜や突然変異の誘発によりランダムに行われていたゲノム改変は、近年では遺伝子組換えやゲノム編集技術を用いることで、より迅速に、特異的に行うことが可能になりました。ただし、これら新旧のゲノム改変技術はいずれも核ゲノムを標的にしたものです。真核生物のゲノム情報は細胞の核の中だけでなく、細胞質に存在するオルガネラ (ミトコンドリアや葉緑体) の中にも存在します。加えて、節足動物などで頻繁に見つかるボルバキアなどの細胞内共生細菌のゲノムもまた宿主に大きな影響を及ぼします。
 これらの「細胞質ゲノム」は、 その多くが片親遺伝 (多くは母性遺伝) であるため、核ゲノムのような古典的遺伝学を適用できません。さらに核酸はオルガネラ膜を容易に透過できないため、ごく一部の例を除いて遺伝子導入や遺伝子組換え、さらにCRISPR/Cas9によるゲノム編集も不可能でした。
 細胞質ゲノムは細胞内のゲノム全体のたった1%程度の遺伝情報しかもちませんが、光合成、呼吸、多コピー性、母性遺伝、性決定、250種類を超えるミトコンドリア病の原因変異など、基礎的にも応用的にも重要で興味深い生命現象の根幹を担っています。近年のゲノム編集を含めた核ゲノムの改変技術の急速な進展により、細胞質ゲノムが直接関わる部分だけが未解明課題として残され、その重要性は相対的に増加しています。
 本領域では、これまでに我々が開発した先行技術と蓄積した知識のアドバンテージを活かし、「細胞質ゲノム」の研究者が集うことで重要生命現象の解明を目指します。

研究目的1:先端細胞質ゲノム制御技術を集約し、さらなる改良により誰でも使える技術へ
細胞質ゲノムの自由自在な編集や、次世代に安定して遺伝する外来遺伝子導入技術はごく一部を除いてまだまだ不可能です。また細胞質ゲノム制御の利用は、未だに「誰でも使える技術」には程遠いといえます。これまで各自が独自に開発してきた細胞質ゲノム制御技術を集約し技術革新と領域貢献を目指します。

研究目的2:多くの謎が残される細胞質ゲノム挙動、 “遺伝”を完全理解する
未だ多くの謎が残されている「細胞質ゲノムの“遺伝”」の理解を推進します。ここで挙げる“遺伝”とは、世代を超えた遺伝はもちろん、多コピーが共存する細胞質ゲノムの細胞内や個体内での分子集団挙動や、それらの維持伝達、遺伝子発現とその制御機構などを含みます。「細胞質ゲノムの“遺伝”」に係わる未解明問題を、研究目的1の細胞質ゲノム制御技術を活用しつつ解明します。

研究目的3:細胞質ゲノムが影響を与える多様な生命現象の理解と応用研究への展開
細胞質ゲノムがコードする遺伝子は、オルガネラ自身に直接影響を与えるにとどまらず、宿主である細胞や個体の様々な重要生命現象 (性制御、病態発現、農業育種利用など)、さらには環境や人間社会へ多様な波及効果を生じさせます。研究目的3では, 細胞質ゲノム制御技術を利用しつつ、細胞質ゲノムが関与する社会貢献につながるシーズの創出を目的とします。

研究組織

本領域では広く細胞質ゲノムを対象として下図のように「①制御技術」、「②遺伝理解」、「③利用展開」の3つを研究対象分野とし、「制御技術」をA01、その使用対象の研究となる「②遺伝理解」をB01、「③利用展開」をB02 としました。

A01-1
細胞質ゲノム編集と遺伝子導入技術の開発

研究代表者 有村 慎一(東京大学大学院農学生命科学研究科 教授)
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A01-2
オルガネラへの核酸および生理活性分子導入

研究代表者 沼田 圭司(京都大学工学研究科 教授)
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B01-1
植物細胞質ゲノムの遺伝子発現制御機構の解明

研究代表者 竹中 瑞樹(京都大学理学研究科 准教授)
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B01-2
ミトコンドリアゲノムの母性遺伝・動態・品質管理機構の解明

研究代表者 佐藤 美由紀(群馬大学生体調節研究所 教授)
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B01-3
ChloroTALENで御する細胞質ゲノム/葉緑体核様体の動態・修復・母性遺伝

研究代表者 西村 芳樹(早稲田大学先端生命医科学センター 准教授)
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B02-1
ミトコンドリア介入による生体機能亢進技術の構築

研究代表者 石原 直忠(大阪大学大学院理学研究科 教授)
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B02-2
細胞質ゲノム編集技術による高い光合成能を有する植物の創出とその機能解明

研究代表者 矢守 航(東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授)
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B02-3
細胞質共生細菌ボルバキアのゲノム編集による性制御と共生機構の解明

研究代表者 木内 隆史(東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授)
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B02-4
ミトコンドリアに潜在する「オス殺し」システムの解明と育種への応用

研究代表者 風間 智彦(九州大学農学研究院 准教授)
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