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代表挨拶
この半世紀の生物学分野の躍進には、ゲノム塩基配列の解読に加え、その改変技術の進歩が大きく貢献してきました。かつては交配や変異誘発など、運任せで時間を要する技術であったゲノム改変は、近年では遺伝子組換えやゲノム編集の登場により、迅速で特異的な改変技術へと進歩して研究に汎用されています。ただし、これら新旧技術はいずれも核ゲノムの改変を目的とする技術です。
一方で真核生物の生命活動は、核ゲノムの情報だけでは成り立ちません。ミトコンドリアや葉緑体、さらにはボルバキアのような細胞内共生細菌が持つ、"細胞質に存在するゲノム"の働きが、生命現象の制御に深く関与していることが分かっています。この「細胞質ゲノム」に含まれる遺伝情報は、細胞内ゲノム全体のたった1%程度に過ぎませんが、そのゲノム情報は、光合成や呼吸の中心因子をコードし、性決定に関与することや、250種類を超えるミトコンドリア病の原因変異となることが知られています。さらに、その構造や、細胞内に多コピーで存在することや、片方の親からしか遺伝しない母性遺伝など、基礎的にも応用的にも重要で興味深い生命現象の根幹を担っています。ところが、これら「細胞質ゲノム」は、一般的な遺伝学的解析が適用できず、安定的に次世代に遺伝する遺伝子導入や遺伝子組換え、CRISPR/Cas9によるゲノム編集も基本的には不可能となっています。このような状況から、細胞質ゲノムが関わる生命現象の多くが未だ未解明課題として残され、その重要性はますます増加しています。
本領域では、これまでに我々が開発したオルガネラゲノム改変の先行技術と蓄積した知識のアドバンテージを活かし、「細胞質ゲノム」の研究者が集うことで重要生命現象の解明と応用に挑戦します。「技術、学術、応用」の全面で飛躍的な展開を目指していきますので、皆様の温かいご支援をどうぞよろしくお願いいたします。
研究組織
本領域では広く細胞質ゲノムを対象として下図のように「①制御技術」、「②遺伝理解」、「③利用展開」の3つを研究対象分野とし、「制御技術」をA01、その使用対象の研究となる「②遺伝理解」をB01、「③利用展開」をB02 としました。
A01-1
細胞質ゲノム編集と遺伝子導入技術の開発
研究代表者 有村 慎一(東京大学大学院農学生命科学研究科 教授)
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A01-2
オルガネラへの核酸および生理活性分子導入
研究代表者 沼田 圭司(京都大学工学研究科 教授)
Webサイト
B01-1
植物細胞質ゲノムの遺伝子発現制御機構の解明
研究代表者 竹中 瑞樹(京都大学理学研究科 准教授)
Webサイト
B01-2
ミトコンドリアゲノムの母性遺伝・動態・品質管理機構の解明
研究代表者 佐藤 美由紀(群馬大学生体調節研究所 教授)
Webサイト
B01-3
ChloroTALENで御する細胞質ゲノム/葉緑体核様体の動態・修復・母性遺伝
研究代表者 西村 芳樹(早稲田大学先端生命医科学センター 准教授)
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B02-1
ミトコンドリア介入による生体機能亢進技術の構築
研究代表者 石原 直忠(大阪大学大学院理学研究科 教授)
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B02-2
細胞質ゲノム編集技術による高い光合成能を有する植物の創出とその機能解明
研究代表者 矢守 航(東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授)
Webサイト
B02-3
細胞質共生細菌ボルバキアのゲノム編集による性制御と共生機構の解明
研究代表者 木内 隆史(東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授)
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B02-4
ミトコンドリアに潜在する「オス殺し」システムの解明と育種への応用
研究代表者 風間 智彦(九州大学農学研究院 准教授)
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