九州大学大学院 システム生物学 細胞制御工学研究室

細胞制御工学教室ホームページ

 

細胞制御工学教室連絡先

〒819-0395 福岡市西区元岡744
 九州大学大学院 農学研究院 生命機能科学部門 システム生物工学講座 細胞制御工学分野
   教授 片倉 喜範 (KATAKURA, Yoshinori) E-mail:katakura★grt.kyushu-u.ac.jp
   助教 照屋 輝一郎 (TERUYA, Kiichiro) E-mail:kteruya★grt.kyushu-u.ac.jp
     ※メールアドレスの★を@に変更してください

 

健康に良い水に関する研究とナノ医学への応用(機能水・機能性食品・エネルギー寄附講座

 水は生命体にとって最も重要な物質であるが、いまだにその機能が充分に解明されていない不思議な物質でもある。我々は食物を摂らなくても一ヶ月以上生存することができるが、水を飲まないと3日で生命が危機にさらされ、1週間程度で死亡する。人体からは絶えず一定量の水が失われていくため、毎日新鮮な水を摂取する必要がある。このことから、人体は水が入っては出ていく一種の川であると考えることができる。人体の中の水は心臓のポンプ作用により激しく流れている。最近、この水の流れや分子レベルでの動きが臓器の形の維持や細胞機能の活性化に重要な働きをしていることが明らかになってきた。水の機能は以下に示したように主に3つに分類できる。

 
  1. 水分子そのもののもつ機能  
      水の流れ、生体分子への水和、水のブラウン運動によるゆらぎ、水のクラスター構造など、水は人間の意識とも関わっている。
  2. 水分子に由来する物質の機能  
      水素、活性水素、酸素、活性酸素
  3. 水に溶解した物質の機能  
      ミネラルナノ粒子、ミネラルイオン、抗酸化物質、酸化物質、栄養物質など
 

 飲料水の電気分解によって陰極側に生成される電解還元水(アルカリイオン水とも呼ばれている)は医療用の水として厚生労働省が認可しており、胃酸過多、腸内異常発酵、食欲不振、消化不良、慢性下痢、便秘などの胃腸症状に効果があるとされている。電解還元水の安全性と医療効果については医薬品と同様なインビトロ試験、ラットやサルを用いた安全性試験、ヒトでの2重盲検臨床試験などで確認されている。

 当研究室では1996 年にガン、糖尿病、動脈硬化症、神経変性疾患、アレルギー症など酸化ストレス関連疾患の患者が電解還元水を日常的に飲用することにより症状が改善されたという一部の病院からの報告に注目した。多くの疾病に共通する原因あるいは増悪因子が活性酸素であること及び電解還元水は分子状水素を多量に含むことに注目し、電解還元水中の不活性な分子状水素が何らかに機構により活性化されて生成する活性水素により体内の過剰な活性酸素が消去されるために、様々な酸化ストレス関連疾患が改善されるという「活性水素還元水説」を提唱した。その後、電解還元水が電極由来の白金ナノ粒子を含有することが明らかとなり、白金ナノ粒子の触媒作用により水素分子から活性水素が発生するだけでなく、白金ナノ粒子自体が活性酸素種を直接的に消去する作用をもつという「活性水素ミネラルナノ粒子還元水説」を提唱した。

   

 水道水由来の電解還元水は様々な無機及び有機化合物を含むことから電解還元水モデル水としてNaOH 水由来電解還元水を用いて、インビトロでの還元力及び抗酸化力、動物培養細胞や実験動物レベルでの抗腫瘍効果、抗糖尿病効果、抗動脈硬化症効果、抗神経変性疾患効果などを明らかにしてきた。また、天然水の中にも、大分県日田市の地下水(商標日田天領水)、ドイツのノルデナウ水、フランスのルルド水なども還元力を持ち細胞内の活性酸素を消去する天然還元水であり、抗糖尿病効果を持つことを明らかにした。日田市天然還元水については実際に中国吉林省長春市の市民病院や福岡市の福岡徳洲会病院で臨床試験がなされ、ヒトで抗糖尿病効果を持つことが実証されている。また、ドイツ・ノルデナウ水については医師Z. Gadek 博士との共同研究を行い、411 人の2 型糖尿病患者を対照にした臨床試験で症状が改善されることを報告した。広島大学大学院医歯薬総合研究科で2008年11月~2009年9月に実施された100名のボランティアを対象にした抗メタボ効果無作為二重盲検臨床試験でも、日田市天然還元水を一日約2リットル飲用することにより、血圧の低下、便秘の改善、総コレステロール値の低下、LDLコレステロールの低下、アディポネクチン(善玉サイトカインの一つ)の増加、GOT・GPT・γ-GTPの低下、空腹時血糖値の低下、中性脂肪の低下、動脈硬化指数の低下、レプチン(善玉サイトカインの一つ)の増加、尿酸値の低下、尿中8-OHdG(遺伝子の酸化ストレスマーカー)の低下などの有意な効果が認められた。

 一方、2007 年に分子状水素がヒドロキシルラジカルなどの活性酸素を直接消去し、脳梗塞モデルラットの症状を改善するという論文が報告されて以来、水素分子の酸化ストレス関連疾患モデル動物における改善効果に関する論文が多く発表されている。我々は任意の混合ガス雰囲気下で細胞培養できるガスインキュベーターを開発し、水素分子の培養細胞に及ぼす効果を詳細に検討した。その結果、分子状水素が細胞内の抗酸化酵素群を誘導するレドックス制御機能を有し、間接的に細胞内活性酸素を消去するという機構を明らかにした。また、線虫の寿命に及ぼす電解還元水の効果を明らかにするために、新しい水培養法を開発し、水道水由来の飲用可能なTI-9000 電解還元水及びNaOH 水由来のTI-200 モデル電解還元水がともに線虫体内の活性酸素を消去し、線虫の寿命を延長させることを明らかにした。

   

 これらの還元水研究に関連して、白畑教授は2001 年韓国学術会議特別講演、2002 年米国NIHセミナー、2007 年及び2009 年にカロリンスカ研究所招待セミナー(スウェーデン生理学会後援)を行った。また、2009 年よりカロリンスカ研究所神経科学科神経毒性学研究室との間で、電解還元水による神経変性疾患の抑制に関する共同研究が開始された。