研究テーマ

研究テーマを紹介します。当研究室は主としてアーキアを用いた研究テーマで動いています。

生命現象を根本で支える三つの"R"

基礎研究

生命を構成する基本単位は細胞です。細胞の中には生命を形作り、生きていくための情報がDNAという形で蓄えられています。生物の成長や繁殖には 必ず細胞分裂を伴いますが、この時、細胞内のゲノムDNA(生命活動に必要な遺伝子情報ひとそろい)が完全な形で複製され、受け渡される必要があります。 私たちは、この「ゲノムDNAを完全な形で複製する」という生命現象が、具体的にどの様な仕組みで行われているのか解明したいと考えています。なぜなら ば、ゲノムDNAの複製は生命を根本で支える極めて重要な過程であり、この過程を理解する事は生命の基本的な仕組みを理解する事であるからです。また、ゲ ノムDNA複製の仕組みには生命がたどってきた何十億年にもわたる歴史が刻み込まれています。

この研究には医療や産業に大きな貢献を果たす可能性があります。例えば、ガンの原因の一つはゲノムDNAの誤った複製なのです。「ゲノムDNAを完全な 形で複製」するためにはDNA自体の複製(Replication)と、複製の誤りが起こった際の修復(Repair)が必要となります。また、複製や修 復を陰で支えたり生命多様性の源となるDNAの組換え(Recombination)はとても重要です。当研究室では、生命を根本で支えるこれら三つの過 程(3R)に関わるタンパク質を扱い、その分子機構を研究しています。

古細菌研究から生命の起源を探る

超好熱性アーキア

地球は驚くほど多様な生き物で溢れています。しかし、大きく分ければ生命は三つのグループ(ドメインと言います)に分けることができます。一つは人間や動 植物のような真核生物、もう一つは大腸菌、乳酸菌などの細菌、そしてもう一つがアーキアです。アーキアは日本語では古細菌または始原菌と訳されています。 古細菌の提唱に対して、従来から知られていた細菌は真正細菌と呼ばれるようになりました。生物を真核生物、真正細菌、アーキアの3つのドメインに分けるこ とは、高校生物学の新課程にも加わりました。

アーキアの姿は真正細菌に似ていますが、ゲノムDNAの遺伝子を眺めると、DNA複製や修復機構、そして組換えに関わるタンパク質は真核生物のものと共 通の祖先を有しており、その分子機構機構はむしろ真核生物に類似していると予想されます。また、アーキア特有のタンパク質因子も見つかっており、アーキア 独自の分子機構が存在する事も予測されます。アーキアは地球上に生命が生まれた頃を想像させる極限環境下(例:100 ℃の高温や強い酸性下)で生活しており、生命の誕生の秘密を今に伝える特異な存在であることも考えられます。

私たちはそんなアーキアを用いて、生命現象を根本で支える上記の三つの「R」を研究することで生命の謎に挑んでいます。

遺伝子工学技術は生命科学に革命をもたらした!

応用開発研究

試験管内で遺伝子を切ったり貼ったりする遺伝子工学にはDNAに作用する酵素が欠かせません。これらの酵素、すなわちDNAに対するはさみの働き をする制限酵素や、糊の働きをするDNAリガーゼなどは特に有名です。このようなDNAに作用する酵素は上記の3R研究から見つかってきたもので、それら を人類は都合の良いように応用してきました。当研究室では、アーキアの3R研究、特に100℃の高温で機嫌良く生きている超好熱性アーキアの3R研究から得られる情報を用いて、有用遺伝子工学酵素、技術開発を行っています。

タンパク質は一般的に熱に弱く、すぐに変性して失活するのですが、好熱菌が産生する酵素は熱安定性に優れており、応用に適しています。耐熱性酵素として特に有名なのはPCR (Polymerase Chain Reaction) に利用されている Taq DNAポリメラーゼです。耐熱性Taq DNAポリメラーゼの利用によって、PCRの自動化が実現し、広く世界中に普及しました。現在では、基礎生命科学領域ばかり ではなく、遺伝子診断、遺伝子治療などの臨床領域や、親子鑑定、個体識別技術として、PCRは広く一般社会で利用されています。当研究室では超好き熱性 アーキアを用いた基礎研究を、PCRの改良や新しい遺伝子増幅技術開発などの応用研究へ直接繋げて行くことを実践しています。

また生物は、遺伝情報を担うDNAに傷が入った場合に、素早く修復する能力を有しています。特に超好熱菌のように高温下で生息する生物は、DNAに損傷を受け易いので、特に優れた特殊なDNA修復機能を有しているのではないかと考えられています。

当研究室では、超好熱性アーキアのDNA修復機構を研究することによって、その謎を解き明かしたいと考えています。さらに、その過程で次々と発見されるDNA損傷関連酵素の特徴を解析し、それらを用いて、新たな遺伝子工学技術開発に繋げています。

メタゲノム解析手法を用いた海の環境モニタリング

環境メタゲノム解析

地球上に存在する微生物のうち、現在までに単離、同定されているものは全体の0.1%にも満たないと言われています。すなわち、私たちが知らない 微生物が、私たちの住む環境中はまだまだたくさん存在します。近年、DNA単離技術、塩基配列解読技術の発達によって、環境中の微生物を単離することな く、直接DNA解析を行うメタゲノム解析手法がさかんに行われるようになってきました。私たちは、このメタゲノム解析による海の環境モニタリング技術開発 を目指しています。海中に生息する様々な微生物の個々に特定せずに、混在した状態でDNA抽出し、それらのDNA断片や遺伝子の特長およびその存在量で生 態系の変化を探索するところがこれまでの研究と異なるところです。

地球温暖化や汚染などによる海洋環境の変化が世界的に大きな問題となっています。また、先に我が国を襲った大規模地震による津波 は、東北沿岸環境に大きなダメージを与えました。このように海洋環境が破壊されたとき、生物多様性に対する影響、海洋環境の状態把握と修復過程のモニタリ ングは、危急の課題となっています。また、養殖を含む沿岸漁業は、我が国の海面漁業生産量の45%を占め、多様な魚介類を食卓に提供する重要な役割を担っ ています。しかし沿岸漁場では、赤潮、貝毒、魚病など環境由来の漁業被害が継続的に発生しています。例えば、最近にも2年連続で八代海においてシャットネ ラによる大規模な赤潮が発生し、約80億円にものぼる漁業被害が生じたことは記憶に新しいものです。

当研究室では海水サンプルから直接DNAを抽出して、それを次世代シークエンサーで網羅的に配列解析を行うという手法を確立させました。この手法で、実際に、九州の有明海、八代海、鹿児島湾、博多湾や、東北の被災地域の海水の分析を初めています。

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