九州大学大学院 農学研究院 昆虫学分野

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セミナー:第25回九州昆虫セミナー
講 師:比留間 潔 博士(弘前大学農学生命科学部)
期 間:2014年5月28日(水)16:00~17:00
場 所:箱崎キャンパス 農学部 21世紀プラザII 第二講義室
http://www.kyushu-u.ac.jp/access/map/hakozaki/hakozaki.html
            (地図中の58です)

「昆虫の発育とホルモン -現象から分子へ-」

 

 セミナー終了後、18時頃から九大農学部におきまして比留間先生を囲んでの懇親会を開催予定です。

 懇親会への参加を希望される方は、5月21日(水)までに徳田宛、または、九州大学の紙谷准教授(kamitani@agr.kyushu-u.ac.jp)までお知らせ頂けますと幸いです。

 

「幼若ホルモン(JH)の存在下で脱皮を誘導するエクダイソンが分泌されると幼虫は幼虫脱皮を繰り返す。しかし終齢幼虫にみられるように血中のJHが一度完全に消失し、少量のエクダイソンが分泌されると蛹に変態するようにプログラムされる。この現象は蛹コミットメント(注)といわれ、これが完了するとたとえJHが存在していても幼虫へとは逆戻りできない。しかし、実際の蛹発育が起こるためには、もう一度エクダイソンに曝される必要がある。一方、成虫発育は蛹期にJHが存在しない状態でエクダイソンのみ作用することにより引き起こされる。」
私が研究を始めた1970年代の半ばはこのあたりまでしか解明されていなかった。本講演では、昆虫の脱皮・変態を誘導する幼若ホルモンとエクダイソンの発育時期特異的な作用機構を、実験形態学手法から分子生物学的手法までを使用して私が解明してきた研究を紹介したい。初めに発育時期により変動する両者のホルモンの時期特異的な役割、相互作用について明らかにした結果を述べ、それらと関連させて幼虫脱皮と蛹変態の分子メカニズムについて述べる予定である。
幼虫脱皮時に皮膚のメラニン化や硬化に重要なドーパデカルボキシラーゼ (DDC) が発現する。エクダイソンによるDDCの発現制御の鍵となるメカニズム、すなわちエクダイソン受容体と様々な転写因子のネットワークを確立して、幼虫脱皮の分子メカニズムを明らかにした。一方、蛹変態の分子メカニズム解明には、ショウジョウバエの成虫よりも大きく発育する巨大単一細胞Verson’s glandを使用して、幼虫から蛹へのコミットメントは細胞のレベルでも徐々に起こることを見出した。これは個々の細胞のコミットメントはall-or-noneで起こるという発生生物学の常識とは異なる結果となる可能性が強い。さらに、30年間ほとんど進展のなかったJH生合成調節機構を解明し、蛹変態の引き金となるJHの合成停止には幾重にも保険が掛けられ、作用機構の異なる複数の要因が作用して完全停止へと導かれることを明らかにした。これらの研究過程で、昆虫のメラニンは、哺乳類(ドーパメラニン)とは異なりドーパミンメラニンとして初めて同定し(現在では、昆虫を含む節足動物のメラニンはドーパミンメラニンであることが定説)、またシアル酸の存在を昆虫で初めて証明した。これらの発見過程などについても触れたい。

(注)コミットメントとは発生生物学上の現象で、未分化の状態の細胞からから分化後の運命が定められた状態に変換することである。

講演内容の詳細は下記の総説を参考にしてください (重要な論文は英語の論文に引用されています)。2008年と2009年の総説は幼虫脱皮時に見られるメラニン化機構のホルモン調節に焦点を当てていますので、生態学や分類学分野の研究者にも研究のヒントになると思います。

  • 比留間潔 (1983). 化学と生物21, 84-91.
  • Hiruma, K. (2003). Encyclopedia of Hormones, Vol. 2, 528-535. Academic Press.
  • 比留間潔 (2008). 化学と生物 46, 571-578.
  • Hiruma, K. and Riddiford, L.M. (2009). Insect Biochem. Mol. Biol., 39, 245-253.
  • Hiruma, K. and Riddiford, L.M. (2010). J. Insect Physiol., 56, 1390-1395.
  • 金児雄・比留間潔 (2011). 比較内分泌学 37, 204-211.
  • Hiruma, K. and Kaneko, Y. (2013). Curr. Top. Dev. Biol. 103, 73-100.

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