九州大学大学院生物資源環境科学府
侵入害虫の生態
近年、国際規模の物流の増加により、外来昆虫が新たな場所に侵入し、在来昆虫の駆逐、作物への加害、環境の悪化など大きな問題となっています。
本研究室では、侵入害虫が新天地で大発生し害虫化するメカニズムを解明し、効率的に分布拡大の阻止や防除を行えるよう研究を進めています。
・侵入害虫キムネクロナガハムシBrontispa longissimaに存在する2系統(隠蔽種)とその分布拡大・大発生
この2系統(隠蔽種)の存在は、天敵を利用してそれぞれを防除する際にも考慮する必要があります。
天敵昆虫である寄生蜂の行動、生態
寄生蜂類は卵および幼虫期に寄生生活を、成虫期は自由生活を送るというユニークな生活史を持ち、様々な昆虫や他の節足動物を寄主として利用するように進化してきました。
本研究室では、寄生蜂の生活史及び繁殖特性を調べ、適応的意義や進化を解明するとともに、それらの特性を生物的防除や他の分野に利用するよう研究を進めています。
・卵寄生蜂カメムシタマゴトビコバチOoencyrtus nezaraeの寄主認識と既寄生寄主の識別
この蜂は様々なカメムシの卵に寄生します。野外では、出会った卵が寄生可能かどうかを触角で卵全体をくまなく調査した上で、そこに産卵するかどうかを決定します。 この過程を寄主認識と呼びます。 寄主認識の手がかりとして、寄主の表面にある寄主特有の化学物質(カイロモン)や寄主の形状などが知られています。
この蜂では寄主の形や大きさが認識の手がかりのひとつになることがわかりました。 ホソヘリカメムシ卵と同じくらいの大きさの球状のガラスビーズやアカツメクサの種を与えると、寄主と間違い、産卵管で産卵するための穴を開けようとします。
ホソヘリカメムシ卵 | ガラスビーズ | アカツメクサの種 |
この蜂の卵は卵柄と呼ばれる部分を持ち、カメムシ卵に産下された卵の卵柄部分は寄主卵表面から突出します。 したがって、カメムシ卵表面を実体顕微鏡で観察すると、その卵が寄生されているかどうかがわかります。 実は、この蜂は、既に同種に寄生された寄主を識別できますが、その既寄生寄主の識別は、その蜂の卵柄を手がかりとして行っているのです。
また、この蜂は、他の個体が産卵したばかりの寄主に重複して産卵することがあります。 蜂は寄主卵に産卵する時は、時間をかけて産卵管で穴を開けた後、そこから卵を入れますが、既寄生寄主に産卵する場合には、自分で穴を開けずに前の個体が開けた穴を利用して産卵します。
・幼虫寄生蜂シマメイガコマユバチBracon hebetorの殺卵
この蜂は外部幼虫寄生蜂で、メイガ類の幼虫の体の上に産卵します。この蜂が既に同種に寄生されている寄主に遭遇すると、その寄主上を自身の産卵管でくまなく探し、寄主上にある同種の卵を産卵管で刺し殺すことがよくあります。 その後、その寄主に自身の卵を産みます。 これを殺卵と呼びますが、殺卵は自分の子供の生存を確保するために、他個体の子供との餌をめぐる競争を減らしていると考えられます。
・アリガタバチGoniozus indicusの子の保護
この蜂はインド原産で、トウモロコシやサトウキビの茎内部を穿孔する鱗翅目幼虫に寄生しますが、蜂はこの寄主幼虫が開けた坑道から侵入し、茎内部に潜む寄主幼虫に寄生します。外部幼虫寄生蜂のこの蜂も殺卵を行います。 シマメイガコマユバチと異なり、そこに接近してくる同種や他種の蜂を噛み付いて追い払う、子の保護行動をとります。しばしば子が蛹になるまで寄主の近くに留まります。
・マルカメクロタマゴバチParatelenomus saccharalisの寄主卵隗防衛行動
この蜂は雑草クズを加害するマルカメムシの卵に寄生します。
マルカメムシは10〜50個の卵を2列の卵隗で産卵します。 この卵隗に到達した蜂は、カメムシ卵1個に1卵ずつ産卵しますが、産卵途中に同種他個体あるいは異種がその卵隗に接近すると、噛み付いて追い払う、寄主卵隗防衛を行います。
寄生蜂を利用した生物的防除、匂い探知
・寄生蜂の学習機構および学習能力を利用した匂い探知技術の開発