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研究内容

昆虫ゲノム科学研究室

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昆虫分散型動原体
機能未知遺伝子(カオナシ遺伝子)
エピジェネティクス制御機構の解析
オートファジー分子機構の解析
翻訳後修飾
昆虫細胞における解析手法の開発
バキュロウイルス発現系 (Virus-Like Particle)
バキュロウイルス発現系(有用タンパク質生産)

昆虫分散型動原体

動原体は、複数のタンパク質によってセントロメアDNA上に構成されているタンパク質複合体 であり、多くの生物では1染色体に1つの動原体が存在しています(局在型動原体)。一方、カイコに代表される鱗翅目や毛翅目・半翅目昆虫は、線虫やルズラと同様に1染色体に多数の動原体 (セントロメア)を有する「分散型動原体」を持っていることが古くから知られています。
しかし、カイコ分散型動原体の分子生物学的な解析はあまり行われておらず、特殊な染色体の形成機構についてはほとんど研究が行われていません。また、進化の過程で局在型動原体から分散型動原体へと染色体の構造の変化が独立に数回起こったことが予想されており、昆虫の分散型動原体を 解析することで染色体に関する新たな知見が得られる可能性があります。
カイコ分散型動原体は、同じ「分散型動原体」タイプである線虫やルズラとは異なるメカニズムでセントロメア/動原体が規定・形成されている可能性が示唆されており、どのようなメカニズムでカイコセントロメアが決定されているのか、どのようなタンパク質が動原体を構築しているのかに興味をもって研究を行なっています。

Chromatin-induced spindle assembly plays an important role in metaphase congression of silkworm holocentric chromosomes (Mon et al., 2014, Insect Biochem. Mol. Biol.)

Identification and functional analysis of outer kinetochore genes in the holocentric insect Bombyx mori (Mon et al., 2017, Insect Biochem. Mol. Biol.)

機能未知遺伝子(カオナシ遺伝子)

次世代シーケンサーの登場によりゲノム全塩基配列や遺伝子配列の取得が容易になり、さらにバイオインフォマティクスによる解析から、遺伝子の機能を予測することが可能となっています。しかし、種特異的な遺伝子や進化速度の早い遺伝子など、相同検索やタンパク質のドメイン検索からでは機能推定できない遺伝子(カオナシ遺伝子)も数多く存在しています。これらカオナシ遺伝子の機能解析を進めることにより、昆虫特異的(チョウ目昆虫特異的)な遺伝子がどのように既存の生命システムで機能しているのか、また、これまでオルソログ関係が明らかでなかった遺伝子がど のような機能をもっているのかに興味を持っています。
そこで、カイコにおける共発現遺伝子ネットワークモデルを作成し、動原体関連遺伝子や様々な 生命現象に関わる機能既知の遺伝子と発現パターンに相関があるカオナシ遺伝子に着目して研究を行っています。

エピジェネティクス制御機構の解析

遺伝子の発現パターンは、DNA 配列だけでなく、DNA やヒストンの化学修飾や DNA と相互作用するタンパク質が変化することによって調節されています。[エピジェネティクス]
この調節機構によって、クロマチン構造が大きく変化することが知られており、細胞内の代謝制御や組織の発生において重要な役割を持っています。
カイコにおいては、動原体が他の多くの生物とは異なる分散型の構造を持っているため、そのクロマチン構造制御に関しても、他の生物とは異なる可能性があります。
そこで、カイコのクロマチン構造制御に注目して研究を行っており、他のモデル生物とは異なる特異な点を解析しています。

Molecular characterization of heterochromatin proteins 1a and 1b from the silkworm, Bombyx mori (Mitsunobu et al., 2012, Insect Mol. Biol.)

Biochemical characterization of maintenance DNA methyltransferase DNMT-1 from silkworm, Bombyx mori (Mitsudome et al., 2015, Insect Biochem. Mol. Biol.)

オートファジー (autophagy) 分子機構の解析

昆虫に特徴的な生命現象として、脱皮や変態があります。
この際に、細胞内ではタンパク質が分解されることが知られています。[オートファジー]
カイコにおいてのオートファジーに関して、他のモデル生物とは異なる点を発見しています。現在は特に
選択的オートファジーの分子機構の解明
新規オートファジー関連の探索 などを目指して研究を行なっています。

オートファジー

Proteasome inhibitor MG132 impairs autophagic flux through compromising formation of autophagosomes in Bombyx cells (Ji et al., 2016, Biochem. Biophys. Res. Commun.)

Lipidation of BmAtg8 is required for autophagic degradation of p62 bodies containing ubiquitinated proteins in the silkworm, Bombyx mori (Ji et al., 2017, Insect Biochem. Mol. Biol.)

翻訳後修飾

タンパク質は、細胞内で翻訳された後に、様々な糖鎖をはじめとする様々な修飾を受け、それがタンパク質の活性化に重要なことが知られています。また、他の酵素によるタンパク質の切断や、シャペロンによるリフォールディングなどもタンパク質の活性化に関して、重要な要素の1つです。
そこで、私たちは、このような翻訳後のプロセッシングについて、カイコにおいての分子機構の全体像の理解を目指しています。
また、そのような基礎研究の知見を活かして、カイコ-バキュロウイルス発現系で生産したタンパク質をより高品質なものにするための新規技術の開発を行っています。

A truncated form of human alpha 1-acid glycoprotein is useful as a molecular tool for insect glycobiology (Morokuma et al., 2018, Int. J. Indust. Entomol.)

A functional polypeptide N-acetylgalactosaminyltransferase (PGANT) initiates O-glycosylation in cultured silkworm BmN4 cells (Xu et al., 2018, Appl. Microbiol. Biotechnol.)

遺伝子工学技術を用いた
昆虫細胞における新規技術の開発

分子生物学の研究においては、実験を効率よく行うための新規技術の開発が必要です。 カイコの培養細胞を用いた場合には、市販されている実験系や他生物で使用されているアッセイ系がうまく機能しないことが多々あります。そこで、様々な昆虫細胞で機能する既存システムの改良、および新たな研究ツールの開発を行ってきました。代表的なものとしては、ハイスループットな遺伝子阻害実験のための細胞株作出が挙げられます。この細胞株を用いて、細胞周期、オートファジー、糖鎖、小分子ncRNAなど様々なゲノム機能発現に関わる遺伝子の解析を行ってきました。

Effective RNA interference in cultured silkworm cells mediated by overexpression of Caenorhabditis elegans SID-1 (Mon et al., 2012, RNA Biol.)

CRISPR/Cas9-mediated knockout of factors in non-homologous end joining pathway enhances gene targeting in silkworm cells (Zhu et al., 2015, Sci. Rep.)

カイコ-バキュロウイルス発現系
(Virus-Like Particle)

Virus-like particle ウイルス様粒子:VLP とはウイルスゲノムを含まないウイルスの外殻のみが自己集合化して作られる粒子のことで、高い免疫原性を持ち、決して宿主内で増殖することがないという安全性からワクチンまたはドラッグデリバリーにおけるナノカプセルとしてなどの利用が期待されています。そこで、我々はカイコ-バキュロウイルス発現系を用いてこのVLPを形成するタンパク質をカイコ体内で作らせ、様々な病気をもたらすウイルスに対するワクチン開発を進めています。また、VLPを基盤にして、その表面に異なる抗原をディスプレイすることで通常では免疫原性が低い抗原の免疫効果を上昇させる試みも行っています。

Purification and characterization of immunogenic recombinant virus-like particles of porcine circovirus type 2 expressed in silkworm pupae (Masuda et al., 2018, J. Gen. Virol.)

Modular Surface Display for Porcine Circovirus Type 2 Virus-like Particles Mediated by Microbial Transglutaminase (Masuda et al., 2018, J. Insect. Biotechnol. and Sericol.)

カイコ-バキュロウイルス発現系
(その他のタンパク質生産)

カイコ-バキュロウイルス発現系を用いて、大腸菌や動物培養細胞などの他の発現系では生産困難なタンパク質を生産する方法についても研究を行っています。これまでに、GM-CSF(granulocyte-macrophage colony stimulating factor)、 bFGF(basic fibroblast growth factor)、 IL-2(Interleukin-2)などで生産に成功ています。
さらに、九州大学に数多く保存されている豊富なカイコ系統のストックを活用し、より効率的に生産するシステムの開発に取り組んでいます。
2018年に九州大学の大学発ベンチャーとして立ち上がったKAICO株式会社には、これらの技術を提供し、タンパク質の生産・販売に協力しています。

Expression, purification, and characterization of recombinant human α1-antitrypsin produced using silkworm-baculovirus expression system (Morifuji et al., 2018, Mol. Biotechnol.)

Expression and purification of biologically active human granulocyte-macrophage colony stimulating factor (hGM-CSF) using silkworm-baculovirus expression vector system (Kinoshita et al., 2019, Protein Expr. Purif.)