九州大学農学部附属農場高原農業実験実習場



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  QBeef概要




 QBeef概要

QBeefとは・・・
家畜の飼養に「代謝インプリンティング」の概念を導入し、黒毛和牛の持つ脂肪蓄積能力と赤身肉のおいしさを国産草資源で育んだ日本人のための牛肉です。


1. QBeefの生産コスト

   QBeefの生産コストは、国内の粗飼料を肥育期に給与することで、従来のコマーシャルの黒毛和牛霜降り牛よりも、かなり低くなる。 輸入濃厚飼料給与は、代謝インプリンティング時に使用する約1トンのみであるので、使用率を約80%カットすることができ、それを試算するとQBeef 牛1頭の生産における飼料自給率を、約70ポイント以上上昇させ、O-157等の腸管出血性大腸菌も粗飼料(植物資源)での肥育により抑制されることが明らかとなっている(中澤と鮫島、2003)。
 本ウシ飼養管理プログラムは、国内の草資源を活用した資源循環的生産に著しく寄与するプログラムであり、生産コストに関しては、コマーシャルの一般肥育(黒毛和牛霜降り牛肉)と比較すると、粗飼料を自家生産できるか否かで異なるが、概してQBeefの生産コストは低くなる(表1)。 QBeefの生産コストは、国内の粗飼料を肥育期に給与することで、従来のコマーシャルの黒毛和牛霜降り牛よりも、かなり低くなる(表1)。
 高原農業実験実習で試算した場合、一般的に濃厚飼料により肥育された黒毛和牛生産に関わる費用は814,617円であり、それに対して、QBeef生産において粗飼料を自家生産できる場合、426,253円となり、国産の粗飼料を購入して生産した場合、581,149円であった。(表1)

(表1) 生産コストの比較

  * 人件費等は除く、素牛費、飼料費のみの比較−
    30カ月齢までの肥育形態で試算し素牛費を40万円で計算。
    飼料74円/kg、粗飼料40円/kgで試算。(竹田市畜産センターの濃厚飼料平均価格 2011年)

  ** QBeef生産の場合−
    子牛からの飼養が必要なので繁殖牛(母牛)も維持する費用(123,736円)も含む。
    放牧や牧草を収穫できる土地および耕作放棄地等の放牧利用が可能である場合。

  *** QBeef生産の場合−
    子牛からの飼養が必要なので繁殖牛(母牛)も維持する費用(220,826円)も含む。
    放牧や牧草を収穫できる土地を持たず、国産の牧草を購入して、飼養する場合。


 このことから、一般的な肥育牛の生産費に比較して、QBeefは52〜71%の生産費に押さえられることになる。 現在、輸入穀物の価格は上昇の一途をたどっており、畜産農家経営は今後も苦しい経営を迫られることが予想され、世界の穀物相場に一喜一憂しなければならない。 それに対し、QBeef生産において畜産農家は、国内の牧草地や国産の粗飼料生産に向き合うことになる。


2. QBeef の肉質

 代謝インプリンティングによる飼養管理よって生産されたQBeef の最終的な肉質としては、一般肥育に比較して、タンパク質含量が多く、比較的脂肪が少ない。(表2)


(表2) 黒毛和牛の胸最長筋(ロース芯)における理化学特性の比較


 また、ロース芯における筋内脂肪割合は、平均値13%であるが、最大24%を示す個体も認められ、適度な脂肪と言える。 ※黒毛和牛を用いて代謝インプリンティングを施さず飼養した場合は、平均して筋内脂肪割合6〜8 %である。まれに16%の個体も見られる。(図6)


(図6)QBeef の肉質と粗飼料のみで肥育した黒毛和牛の肉質と成長
(家畜改良センターとの共同研究)
IMF: Intramuscular Fat content, 筋内脂肪割合%.


 表2、3、4、5より、QBeef(インプリンティング群、T区)ロース芯(胸最長筋)における理化学特性、脂肪酸構成、アミノ酸構成、うま味成分を含む核酸関連物質、ビタミンEおよび
TBARS(※注1))について、一貫して牧草のみで飼養した牛群(粗飼料のみ飼養群、R区)、一般の輸入穀物飼料を主要な飼料として肥育した一般肥育牛群(一般穀物飼料肥育群、S区)と比較した値を示した。

(表3) 黒毛和牛の胸最長筋(ロース芯)における脂肪酸構成の比較


(表4) 黒毛和牛の胸最長筋(ロース芯)におけるアミノ酸構成の比較


(表5) 黒毛和牛の胸最長筋(ロース芯)における核酸関連物質、
ビタミンEおよびTBARSの比較


 詳細は後述するが、QBeef(T区)は、S区と比較して、α-リノレン酸の割合は9倍、飽和脂肪酸の割合が増えるが(13%)、筋内の脂肪分は3分の1となる。アミノ酸構成において、T区はS区に比較して、必須アミノ酸の割合が多くなる(表3)。
 さらにインプリンティング処理の有無の違いで、その後、同様の粗飼料により肥育されたI区とR区を比較すると、I区で脂肪分が高くなり、脂肪酸構成において、オレイン酸とリノール酸の割合が高くなり、アミノ酸構成においてアラニンとカルノシンの割合が低くなる。また、I区でR区よりもビタミンEが多くなる。(表2)。

 一般肥育牛肉では、多量の筋内脂肪(38%〜42%)が蓄積されるが、それは輸入穀物飼料を基盤として生産され、代謝インプリンティングにより生産された牛肉の筋内脂肪含量割合は一般肥育牛に劣るものの、特徴として国産の植物資源由来のα-リノレン酸の割合が、一般肥育牛肉に比較して約9倍多く含まれている(表3)。
 リノレン酸は多価不飽和脂肪酸の一つで、ヒトが体内で合成できないω―3系統の必須脂肪酸の一つでもあり、その中でもα-リノレン酸は、血中の悪玉コレステロールを減少させ、善玉コレステロールに変換する効果をもつ脂肪酸であるEPAやDHAになる材料でもある。 飽和脂肪酸の割合が全体として、一般肥育に比較して6%多い傾向にあるが、絶対量が少ないため問題ないと思われる。
 豊富なタンパク質の中には、必須アミノ酸(トレオニン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン)が、一般肥育よりも多く含まれている(表4)。
 さらに、味覚に関する、いわゆるうまみ系、甘味系、苦み系アミノ酸、一般肥育に比較してQBeefは多く、おいしさにおいて優れていることを示している(表4)。 また、うま味成分の一つである核酸関連物質のイノシン酸も一般肥育に比較してQBeefは、優れていることを示している。(表5)。

 また、肉の硬さの調査(剪断力価、テンシプレッサーによる物理特性およびコラーゲン量)では、若干歯ごたえがあるものの(表2)、プロのシェフによる食味試験では、約48%が十分に受け入れることのできる牛肉と受け入れられた。
 その他、各種フェアにおいてブース等を設置し、一般消費者向けの試食アンケートを東京、福岡、大分にて延べ1,324名に対して行った結果、総合評価において、美味しい→75.8 %、普通→24.1%、まずい→0.1% となり、霜降り牛肉ではないが、QBeef は、十分に一般消費者に受け入れられるものであることが示されている。





注1)TBARS( Thiobarbituric Acid Reactive Substance):
   チオバルビツール酸反応性物質。
   酸化ストレス指標の一つ。本データでは、牛肉の脂質酸化レベル示す指標。      

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