九州大学農学部附属農場高原農業実験実習場



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  牛肉生産システム開発




 牛肉生産システム開発

 九州大学農学部附属農場高原農業実験実習場(家畜生産生態学分野)では、鹿児島大学へ異動された後藤貴文 前准教授(現 鹿児島大学教授)が、国内草資源を最大限に活用したウシの放牧肥育生産システムに利用可能な「代謝インプリンティング」という新しい飼養技術開発に着手してきました。
 そして、初期成長期における体質制御機構の解明を目的とした研究を進めるとともに、日本の草でおいしい牛肉を生産するシステムの開発に向けて“QBeef”を構築し、QBeefシステムを利用したグラスフェッド(草を主体に与えた、あるいは放牧) 型の牛肉生産システムとマーケットの創出を目指しております。


  1. 代謝インプリンティングの家畜飼養への応用という独創性

 草食獣であるウシを草で生産するのは本来の姿であるが、草のみで生産する場合、一定期間で出荷するには肉量と肉質に乏しく、現マーケットに耐えうる肉量と肉質のレベルをクリアするための戦略が必要不可欠である。
 胎児期や初期成長期の栄養環境等により、その後の代謝生理機能が制御されていく効果は、代謝刷り込み(メタボリック インプリンティング)効果と呼ばれるが、医学分野において動物実験により初期の栄養が成熟期の慢性的疾病に対する感受性に影響することが報告されている。
 また近年、動物の胎児期や生後直後の初期成長期に受けた栄養刺激により、その後の代謝、体質および形態に多大な影響を与えることが少しずつ明らかになりつつある。

 高原農業実験実習では、高度に植物資源を活用した飼養に適応するための“ウシ初期成長期の体質制御、すなわち代謝インプリンティング機構の解明と活用”というテーマに対して研究を行ってきた。
 この代謝インプリンティングという概念は、戦時中のオランダ飢饉等の疫学的な調査(胎児期に戦争環境により著しく栄養が制限されたために、中年になって心疾患等の発症が著しくなった)と関連してDOHaD(Developmental Origins of Health and Disease:成長過程における栄養環境や環境因子の作用に起因する疾患の発生) という概念として医学分野で注目され、エピジェネティクスを基盤とした研究が進められている(図2)。

(図2) 代謝インプリンティングとは?

 高原農業実験実習の研究では、この代謝インプリンティング機構を、家畜の飼養にポジティブに取り入れ、胎児期あるいは初期成長期の栄養制御により、フルライフにわたる基盤的な体質あるいは代謝レベルを制御し、国内の植物資源を高度に活用した飼養管理者のターゲットとする生産物を効率的かつ省力的に、最大の結果を得るべく生産する次世代型の家畜飼養システムを開発した。


2. 代謝インプリンティング機構の牛肉生産への応用

 本 Q Beefには、黒毛和牛を用いる。 黒毛和牛は、世界に類をみない高い筋内への脂肪蓄積能力を有し、ユニークな牛肉を生産するわが国独自のシーズである。
 肉質において、筋内脂肪は特に風味ややわらかさにおいて重要とされるが、海外の品種では、7割以上穀物飼料で24カ月齢まで肥育しても、約5%の筋内脂肪しか蓄積できない一方、黒毛和牛は、著しいスピードで筋内脂肪を蓄積することができる。
 この黒毛和牛を用いて代謝インプリンティングというコンセプトのもと、新しい牛肉生産システムを開発する。
 具体的には、ウシの幼少期(0−10カ月齢まで)に代謝インプリンティング処理として高栄養を供与し、ここで太る体質を作り上げ、その後は、植物資源で肥育するというものである。(図3)



(図3) Q Beef における飼養システムと体格の推移


 代謝インプリンティング処理を施したウシは、放牧あるいは乾草で肥育し30−35カ月齢で570−600kgに達する。体重が500kg後半から600kgとなれば、マーケットに耐えうる肉量である。
 代謝インプリンティング処理をかけなければ、放牧あるいは乾草で肥育した同時期のウシの体重は500kg程度である。(図4)


(図4) Q Beef の肉質と粗飼料のみで肥育した黒毛和牛の肉質と成長


 一般の肥育牛(和牛霜降り牛)と完全放牧牛、およびQ Beefの枝肉を解体調査した結果、完全に粗飼料のみの飼養による放牧牛もQ Beefも枝肉中の骨格筋の割合は約60%、脂肪は約20%であり、それに対して一般肥育牛は、枝肉中の骨格筋48%、脂肪42%だった(Gotoh et al., 2009)。
 Q Beef の場合、枝肉は約300kgなので、そのうちの60%骨格筋とすると180kg(生体重600kg)が赤身ということになる。
 一般肥育牛は現在、平均枝肉重量が約460kg(生体重800kg)になっているので、骨格筋重量は約220kgとなり、1頭当たりの赤身肉量を試算すると、Q Beefは通常肥育牛に比較して40kg少ないということになる。
 一方、ウシを高栄養で飼養した場合、骨格筋内にも脂肪がかなり含まれる。従来、一般的に肥育された黒毛和種の21種類の主な骨格筋について平均筋内脂肪含量を調査したところ、約23%だった。
 一般肥育牛の枝肉中の骨格筋内の脂肪含量を約20%と想定すると、純粋な赤身肉の重量は176kgとなる。
 またQ Beefのロース芯の筋内脂肪から推定した骨格筋の平均筋内脂肪は約9.6%となり、赤身肉は162kgとなる。つまり200kgの体重差で14kgの赤身肉の差異となる。
 今後のさらなる研究により、Q beefの産肉量をアップさせる予定であるが、現在のところ、1頭枝肉300kgで生産を考えている。




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