1. 代謝インプリンティングの家畜飼養への応用という独創性
草食獣であるウシを草で生産するのは本来の姿であるが、草のみで生産する場合、一定期間で出荷するには肉量と肉質に乏しく、現マーケットに耐えうる肉量と肉質のレベルをクリアするための戦略が必要不可欠である。
胎児期や初期成長期の栄養環境等により、その後の代謝生理機能が制御されていく効果は、代謝刷り込み(メタボリック インプリンティング)効果と呼ばれるが、医学分野において動物実験により初期の栄養が成熟期の慢性的疾病に対する感受性に影響することが報告されている。
また近年、動物の胎児期や生後直後の初期成長期に受けた栄養刺激により、その後の代謝、体質および形態に多大な影響を与えることが少しずつ明らかになりつつある。
高原農業実験実習では、高度に植物資源を活用した飼養に適応するための“ウシ初期成長期の体質制御、すなわち代謝インプリンティング機構の解明と活用”というテーマに対して研究を行ってきた。
この代謝インプリンティングという概念は、戦時中のオランダ飢饉等の疫学的な調査(胎児期に戦争環境により著しく栄養が制限されたために、中年になって心疾患等の発症が著しくなった)と関連してDOHaD(Developmental Origins of Health and Disease:成長過程における栄養環境や環境因子の作用に起因する疾患の発生) という概念として医学分野で注目され、エピジェネティクスを基盤とした研究が進められている(図2)。
(図2) 代謝インプリンティングとは?
高原農業実験実習の研究では、この代謝インプリンティング機構を、家畜の飼養にポジティブに取り入れ、胎児期あるいは初期成長期の栄養制御により、フルライフにわたる基盤的な体質あるいは代謝レベルを制御し、国内の植物資源を高度に活用した飼養管理者のターゲットとする生産物を効率的かつ省力的に、最大の結果を得るべく生産する次世代型の家畜飼養システムを開発した。