研究内容3. 細胞質雄性不稔に関する研究

 雑種強勢とは、C.ダーウィンの時代から知られる現象で、雑種1代目に異なる両親の優性形 質が現れ、両親のいずれよりも体質が強健で発育が良くなる性質です(図1)。代表的な育種技術の一つであり、この性質を用いることで植物個体あたりの収穫 量の増大(20〜50%の収量増加)、耐病性、耐環境性などの有用形質が付与されます。雑種強勢個体の効率よい作出には、異なる♀系統と♂不稔系統の交配を容易にする系統、すなわち自殖しない系統の作出が重要です。そのひとつ、花粉が出来なくなる細胞質雄性不稔(CMS; Cytoplasmic Male Sterility)は、細胞質のゲノム、特にミト コンドリアゲノムの変異による異常遺伝子(CMS遺伝子)の発現により、雄性配偶子(花粉)が正常に機能しなくなる形質です。この形質は、しばしば核に存 在する稔性回復遺伝子(Rf遺伝子; Restorer of fertility)によって打ち消され、雄性配偶子が正常に形成されることが知られていました。このCMS-Rfシステムは、不稔および可稔の制御が可能 なこと、細胞質の母性遺伝を利用できることから、非常に重要な農業形質として知られており、イネ、ナタネなどの農業生産性を飛躍的に増加させることが分かっています。

 CMSではミトコンドリアゲノム中の異常遺伝子(CMS遺伝子)の発現によって、雄性配偶子(花粉)の形成が損なわれます。しかし、核コードの稔性回復 因子(Rf遺伝子)によって稔性が回復します。Rf遺伝子の多くはPPR蛋白質(研究内容2を参照)をコードし、CMS遺伝子の発現を抑制することがわかってきました。細胞質 雄性不稔性およびその稔性回復機構をさらに理解することで、CMS/Rfシステムの高度利用を図ります。