セミナー

第7回セミナー

日時 2022年12月19日 (火) 15:00 ~ 16:00
会場 九州大学伊都キャンパス ウエスト5号館220室
講演者 鈴木 誉保 先生 (東京大学)
演題 鱗翅目昆虫を利用したモデル生物と非モデル生物の融合研究
要旨
昆虫は、模様・食性・防御など実に様々な特徴をもち多様化しています。この多様化は、自由自在に進化してきたものなのでしょうか? あるいは、何か普遍原理があるのでしょうか? この10年間で様々な技術(表現型ビッグデータ、ゲノム、遺伝子組み換え、メタゲノム等)が大きく進展し、いくつかの基本原理が垣間見えつつあります。
本セミナーでは、最近の進展を踏まえながら、昆虫の多様化とルールについてわかってきたことを紹介します。模様グラウンドデザイン、遺伝子制御モジュール構造、昆虫と細菌の関わり、表現型とゲノムのビッグデータ解析など、演者が携わってきた研究をふまえ多角的な視点から話題を提供します。

第6回セミナー

日時 2023年開催予定
会場 九州大学伊都キャンパス ウエスト5号館
講演者 松田拓也 博士
演題 昆虫細胞を用いたウイルス様粒子生産とゲノム編集技術の応用
要旨
ウイルス様粒子 (VLPs) は、ウイルスの構造タンパク質や表面タンパク質から構成される粒子であり、外部構造はウイルスに似ているためウイルスと同様の免疫応答を誘導できるが、内部にはウイルス由来のゲノムを持たないため感染性を有さない。これらの特徴から、VLPsは安全かつ有効性の高いワクチンとして様々な感染症への応用が研究されており、哺乳動物細胞や酵母、大腸菌などの種々の組換えタンパク質生産系を用いて生産され、これまでにいくつかのVLPsワクチンが各国で承認を受けている。一方で、VLPsの生産においては発現させるウイルスタンパク質の選択が重要になるため、近年の新型コロナウイルスのパンデミックのような際にはmRNAワクチンやサブユニットワクチンなどと比べて研究開発に時間が掛かってしまう。我々の研究室では組換え昆虫細胞を用いたVLPs生産を検討しており、本講演では最初に、組換え昆虫細胞を用いたインフルエンザVLPsの生産について、次に、VLPsワクチンの研究開発の迅速化を目指したシュードタイプインフルエンザVLPs生産について説明する。また、現在、組換えタンパク質の高発現が可能な組換え昆虫細胞の樹立は非常に労力や時間が掛かる操作である。そこで、組換え昆虫細胞のVLPsの高生産が可能な組換え昆虫細胞の迅速かつ効率的な樹立を目的としたゲノム編集技術CRISPR-Cas9の応用についても説明する。昆虫細胞を用いたVLPsをはじめとする有用タンパク質生産について紹介するとともに、昆虫細胞・昆虫を利用した有用タンパク質生産の今後についても議論したい。

第5回セミナー(交流セミナー)

日時 2022年12月19日 13:00-
会場 九州大学伊都キャンパス ウエスト5号館 226講義室
講演者 梅森十三 博士 (東フィンランド大学)
演題 光遺伝学と抗うつ薬による神経可塑性の誘導 -光で頭を柔らかくする-
要旨
神経可塑性は臨界期において最も高く、内外からの環境刺激に応答しながら神経回路が発達する。可塑性は加齢とともに減少するが、抗うつ薬や環境エンリッチメントにより、成体になっても臨界期と同様の可塑性が誘導されること(induced juvenile critical period-like plasticity: iPlasticity)が動物実験によって示されている。我々は、脳由来神経栄養因子(BDNF)の受容体TrkBを青色光により活性化できるoptoTrkBの系を発展させ、マウスの脳内で神経可塑性を誘導した。つまり、光により時間的空間的、神経細胞種特異的に“頭を柔らかく”して、さらにある種の“トレーニング”を組み合わせることにより、弱視や心的外傷後ストレス障害などの神経精神疾患様の症状を改善することに成功した。演者は最近東フィンランド大学で独立し、これらの技術をアルツハイマー病の研究に生かすことを目指して研究を行っている。本発表では、これらのoptoTrkBの研究成果を紹介し、今後の展望について議論する。

演者略歴
大学院卒業後に4年間長野県伊那市の生物系のベンチャー企業で働く。退職後に静岡県三島市の国立遺伝学研究所で博士号を習得。博士研究員(ポスドク)としてしばらく同研究所に勤務した後に、藤田保健大学で助教に就任。退職後してフィンランドヘルシンキ大学でシニアポスドクとして勤務。5月より東フィンランド大学、Gene and Cell technology unitでシニア研究員・グループリーダーとして勤務。

第4回セミナー

日時 2022年11月28日 16:40-
会場 九州大学伊都キャンパス イーストゾーンイースト2号館E-E-105(オンラインハイブリッド開催)
講演者 古俣慎也博士 (東京大学)
演題 ナガサキアゲハのメスに限られたベイツ型擬態の維持機構と分子メカニズム
要旨
ナガサキアゲハにはメスにのみ擬態型(擬態メス)と非擬態型(非擬態メス)があり、擬態メスはベニモンアゲハなどの毒蝶(モデル)に擬態している。擬態メスは後翅の色彩パターン、後翅の形状(尾状突起)、腹部の色彩などで特徴づけられ、これらの形質セットによって擬態を行っている。これらの形質が常にセットになり、組換え型を生じないことからスーパージーン(複数の遺伝子が連鎖して一つの遺伝子であるかのように振る舞う遺伝子座)によってメスの多型が制御されると考えられてきた。本講演ではナガサキアゲハの野外での多型維持機構に関する研究と多型を制御する分子メカニズムの研究について紹介する。まず、台湾での野外調査によって非擬態メス、擬態メス、モデルの頻度動態を調べた。モデルは春先に多く出現する一方で擬態メスは夏に多くなることがわかったが、擬態アリル頻度は年間を通してほぼ一定に保たれていることがわかった。モデルが少なくなる時期であっても擬態メスが維持されるメカニズムや沖縄以北で擬態メスがほとんど生息しない原因について議論したい。次にナガサキアゲハと近縁種のシロオビアゲハの2種について、擬態原因領域のゲノム構造や遺伝子機能解析の結果などを紹介する。2種ともに第25染色体上のdoublesex遺伝子周辺の150kbほどの領域が擬態の原因と考えられるが染色体逆位の有無や原因領域に含まれる遺伝子の構成には違いがある。2種ともにdoublesex遺伝子が多型の制御には重要な役割をもつが周辺の遺伝子も擬態紋様形成に関わっていることがシロオビアゲハで示されている。以上の結果からアゲハチョウ属におけるメスに限られたベイツ型擬態の進化プロセスを議論したい。

第3回セミナー

日時 2020年3月17日(火)15:00-17:00 (講演 15:00 -16:30 + 総合討論) ※2/20コロナウイルスの感染防止対策として、中止となりました。
会場 九州大学農学部 (伊都キャンパス) ウエスト5号館 327室
講演者 坪田拓也 先生(農研機構)
演題 カイコのゲノム編集技術の高度化とその利用
要旨
ゲノム編集は、遺伝子を自在に改変できる技術であり、近年様々な生物でその利用が急速に広まっている。ゲノム編集には、Zinc Finger Nuclease (ZFN)、Transcription Activator-Like Effector Nuclease (TALEN)、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats (CRISPR)/CRISPR associated protein (Cas) 9の3つの基盤技術があり、我々はこれらの技術がカイコでも利用可能であることを明らかにするとともに、その高度化に向けて取り組んできた。カイコでは、これらの基盤技術のうちTALENが最も有効であり、TALENにより様々な遺伝子のノックアウトを効率よく行うことができる。また、プラスミドや短いオリゴDNAをカイコゲノム中の狙った位置に挿入することも、TALENを用いることで可能である。CRISPR/Cas9については、その利用の簡便さからカイコ以外の生物で爆発的に利用が広まっており、カイコでも高度利用を行うための技術開発を我々は進めている。ゲノム編集は、基礎研究だけでなく産業応用のために利用することも可能で、ゲノム編集カイコを用いて有用物質生産の生産量の向上を目指す取り組みが進められている。そのための足がかりとして、我々はフィブロインL鎖遺伝子座へノックインを起こすことに成功した。本講演では、カイコにおけるゲノム編集技術の開発およびその高度化についての現状を紹介するとともに、ゲノム編集を用いた今後の研究の方向性について議論したい。

第2回セミナー

日時 2019年10月15日(火)16:30-18:00 (講演 16:30 -17:30 + 総合討論)
会場 九州大学伊都キャンパス イースト 1 号館 E-C-202
講演者 北條賢 先生(関西学院大学)
演題 シジミチョウとアリの共生:その維持メカニズムと進化
要旨
約 6000 種からなるシジミチョウ科の約 75%は、幼虫にアリと相利共生の関係にある。 シジミチョウの幼虫は、体表面に多数の特殊な外分泌腺を持ち、アリに糖とアミノ酸が富 んだ蜜報酬を提供し、その代わりにアリは寄生虫や捕食者から幼虫を保護する。また、一 部のシジミチョウ種では幼虫がアリの巣に侵入し、巣内の資源を搾取する寄生性が進化し ている。一般的に、蜜報酬と防衛を交換する相利共生においてはシジミチョウとアリの間 には利害の対立が存在すると考えられている。シジミチョウがアリに提供する蜜報酬には 少なからずコストがかかるため、シジミチョウはより少ない蜜報酬でアリを誘引する方が 適応的である。一方、アリは質や量がより良い蜜報酬を提供するシジミチョウを防衛する ことで高い利益を得ることができる。そのため、シジミチョウ科に広く見られるアリとの 相利共生は、このような利害対立が何らかの方法で解消されることで維持されていると考 えられる。本講演ではムラサキシジミ Narathura japonica とアミメアリ Pristomyrmex punctatus の相利共生を題材に、アリがどのようにしてシジミチョウに協力するか否かの 意思決定を行なっているのか、さらにはシジミチョウ側がどのようにアリからの防衛サー ビスの安定化をはかっているかを経験的に調べた結果を報告する。シジミチョウとアリの 相利共生がいかに維持されているかそのメカニズムを紹介するとともに、シジミチョウと アリの共生系の進化についても議論したい。

第1回セミナー

日時 2019年10月7日 (月) 15:00-17:00(講演15:00-16:00 + 総合討論)
会場 九州大学農学部 (伊都キャンパス) ウエスト5号館 327室
講演者 宮川世志幸 先生 (日本医科大学)
演題「遺伝子治療ベクターの最前線とその生産技術における昆虫工場の可能性」
要旨
現在、遺伝子治療は、治療遺伝子の運び屋であるウイルスベクターの安全性が飛躍的に向上し、実用段階に入っている。世界各国で遺伝子治療用製剤の開発が本格化し、活発に臨床研究が進められている。当初、遺伝子治療の対象疾患は特定の単一遺伝子疾患のみであったが、現在では遺伝子治療技術の発展に加え、疾患研究・ゲノム科学の進歩も相成り、対象疾患も多因子遺伝性疾患を含む複雑な疾患にまで広がりを見せている。対象疾患が多様化したことに伴い、治療遺伝子の運搬役であるウイルスベクターには、複数の治療遺伝子同時発現、治療遺伝子の厳密な発現量の調節、組織標的化といった、より高度な遺伝子発現の制御が要求される。我々の研究部では、そのようなアンメットニーズに対応するためにアデノ随伴ウイルス(AAV)と単純ヘルペスウイルス(HSV)を用いた遺伝子治療ベクターを中心に研究開発を進めている。AAVベクターは、その高い遺伝子導入効率と安全性から現在広く遺伝子治療ベクターとして利用されており、既に臨床応用が進んでいる。一方、HSVベクターはその高い遺伝子導入効率に加え、遺伝子搭載許容量が極めて大きいことから、今後多様化が予想される治療遺伝子発現系のニーズに対して幅広く応えることができる担体として期待されている。本講演の前半では、我々が開発を進める遺伝子治療ベクターシステムを中心に、最新の遺伝子治療研究の動向を概説する。後半では、ウイルスベクターの生産・精製法の話題を提供する。世界各国で遺伝子治療の臨床開発が活発化する中で、遺伝子治療用ウイルスベクターの安定供給できる効率的な生産・精製技術の整備が急務である。ここでは、ベクター製造技術開発における我々の取り組みを紹介するとともに、その中で昆虫タンパク質発現系がどのように応用できるか、その可能性を論ずる。