研究項目

遺伝子の働きを網羅的に捉えて、生命活動のメカニズムを探る

DNAチップや次世代シーケンサーによって各生物が持つすべての遺伝子が働いている状態を網羅的に測定することができ、そのデータをコンピューターを利用して解析することで、遺伝子間の関係、遺伝子制御ネットワークを解明することも可能になりつつあります。この技術を応用することによって、細胞の状態を効率的に変化させることも可能であり、病気の治療薬開発などが期待されています

細胞分化のエピジェネティック制御システムの解明

私たちの体の様々な種類の細胞は全ての細胞に分化できる万能幹細胞(受精卵)から生じます。万能細胞は分化誘導によって特定の細胞、例えば神経系細胞へと運命が決定されますが、決定された運命は細胞分裂などの過程でも維持されます。この細胞運命決定と運命維持・記憶は、「スイッチ」と「メモリ」と言い換えることができ、「スイッチ」がONになり、その状態が「メモリ」され、さらに「メモリ」が持続されると表現できます。 当研究室では、 「スイッチ」と「メモリ」を司る機構としてエピジェネティック制御因子Prdmファミリータンパク質に注目して、幹細胞の分化誘導過系を用いた機能解明を目的として研究を進めています。現在対象としている神経系細胞分化過程におけるニューロン・グリア細胞分化制御、及び中胚葉細胞分化過程における心筋細胞・骨格筋細胞分化制御において、Prdmタンパク質が機能していることが明らかとなっています。 今後、Prdmタンパク質のターゲット遺伝子領域やその領域のクロマチン構造変化、他の因子との相互作用を解析することで、1)「スイッチ」がONになり、2)「スイッチ」の状態が「メモリー」され、3)「メモリ」が持続される分子機構を明らかにしたいと思っています。この研究によって得られる成果は再生医療の実現に向けた「目的の細胞・組織への安定的な誘導手法の開発」やがんなどのエピジェネティックな制御が関連する疾患に対しての「診断や治療法の開発」に寄与できると期待しています。

がん細胞の浸潤能制御システムの解明

上皮細胞から発生したがん細胞は、増殖するにつれて基底膜を分解し外側へと浸出する浸潤と呼ばれる現象を経て、リンパ管や血管への侵入を起こし、最終的に離れたリンパ節や他の臓器に遠隔転移します。がん細胞は転移を起こす前に完全に取り除くことができれば、ほとんどの場合で完治が可能です。本研究室では、再発した患者の腫瘍での遺伝子発現を網羅的に解析した結果、神経ペプチドのひとつ、Galanin (GAL) が高発現している傾向にあることを見出し、さらに、大腸がんの転移において機能することを見出しました。そこで、ヒト大腸がん由来細胞の浸潤におけるGALの機能およびGAL下流遺伝子を含む浸潤経路を明らかにすることを目的とした研究を行っています。 また、がん予防の観点からカレーに使用するウコンの成分クルクミンに注目した解析も実施しています。これまでの解析では、大腸がん由来細胞株に対して、浸潤抑制活性やアポトーシス誘導活性を示すことが示唆されており、詳細な機構の解明を目指しています。

炎症におけるサイトカイン作用の制御システム

体内で起こる炎症反応は、異物や死んだ自分の細胞を排除して生体の恒常性を維持しようという反応と考えられますが、過剰な炎症反応や連続的な炎症反応は様々な疾患につながる可能性が高いことが知られています。炎症反応において機能する炎症性サイトカインは単独でもシグナルを惹起しますが、複数のサイトカインを組み合わせて複合的に作用させるとシグナルが相乗的に高まることが知られていますが、その分子機構は未解明です。本研究室では、サイトカインの副作用を解明するために、炎症反応とその結果誘起される繊維化症に注目して、サイトカインの複合作用の解明を目指して研究しています。

麹菌におけるヒト型セラミド合成システムの解析

セラミドは皮膚角質層に存在し、水分保持やバリア、細胞接着能を有する重要な物質です。しかし、セラミド量は加齢ととも低下することが知られており、化粧品素材として使用することで皮膚の状況を改善することが試みられています。しかし、現在市販されている商品の多くは合成されたセラミドであり、分子種も少なく、有効性が低いと考えられています。麹菌は、天然セラミドを含有することが知られていますが、含有量が低いため、高生産型の麹菌の育種が求められています。本研究室では、麹菌内でのセラミド合成制御システムをシステマティックな手法により解明し、ゲノム編集などの改変育種技術開発による高含有量麹菌の作出を目指した研究を進めています。

エマルジョンドロップレット(WODL)による新しい培養システムの開発

エマルションとは、水と油が細かい粒子として分散している系であり、マイクロ流路などを利用した装置によって、30-80μm程度の水滴を油中に一分間あたり万単位で作成できます。この場合、油中に水滴として存在するため、water-in-oil droplet(WODL)と呼びます。我々は、このWODL中で微生物や細胞を培養することができれば、環境中に存在する数千万種類の微生物を分離した状態で培養することや、種類数が判別できない動物細胞を個別に培養することが可能になり、これまで不可能であたった生物研究を可能にするWODLによる微生物や動物細胞の分離培養法の確立に取り組んでいます。 これまでに、環境微生物の培養に成功し、これまで未培養とされてきた環境微生物の培養が可能であることを示してきました。今後、培養した環境微生物を生化学的や分子生物学的な研究を可能にする実験系に発展させる試みを行います。さらに、動物細胞の培養系を確立し、分離した細胞のそれぞれの応答や反応を解析することで、生命現象を解析する新しい実験システムとする予定です。

遺伝子発現制御機構のコンピュータによる解析手法の開発

DNAマイクロアレイや次世代シーケンサーによって得られるトランスクリプトームデータやプロテオーム、メタボロームなどのオーミックスデータを活用して、コンピューターをによって解析することで、遺伝子間の関係、遺伝子制御ネットワークなどを解明することも可能になりつつあります。我々は、様々な原理に基づいて遺伝子制御ネットワークの解明を試みています。これらの成果は、上述した様々な研究テーマと有機的に結びついて研究の進展に貢献しています。 また、この技術を応用することによって、細胞の状態を効率的に変化させることも可能であり、上記のセラミド合成制御系の解明への利用や病気の治療薬開発などが期待されています。

ゲノム情報解析

次世代シーケンサーの急速な発展により、様々な生物のゲノムシーケンスやトランスクリプトーム情報の取得が容易に実行できますが、これらの情報を有効なものにするには、インフォマティックス手法の開発が必須です。当研究室では、Hiseq、Miseq、PacBio、Nanoporeから得れる情報を利用して、様々な生物のゲノムシーケンスを解析しています。 以下の図は、マグロゲノムシーケンスとマグロの筋肉で発現している遺伝子を解析するためのRNA-seqデータからマグロの筋肉おけるエネルギー生産の特徴を解析した例です。

マグロのエネルギー産生系遺伝子の発現比

マグロは長距離・長時間の持続的な回遊能力と短時間の瞬発的な突進能力を併せ持つ頂点捕食者です。優れた運動能力を支えるエネルギー獲得の方法の違いを調べたところ、マグロの赤みと血あいおよび心臓では、それそれエネルギー獲得の方法が違うことが明らかになりました 。