Kyushu University
Genome Chemistry & Engineering Lab.

Your Journey into Genome Engineering Starts Here

研究内容
  • オルガネラ遺伝子発現制御に関する研究




  •  葉緑体とミトコンドリアのゲノムは、先祖である原核生物に良く似た形を持っていますが、その遺伝子の発現はかなり変わっています。 その遺伝子の多くはポリシストリニックに転写されます(複数の遺伝子が一緒に転写される)。しかし、大腸菌で見られるような転写と 翻訳のカップリングは起こらずに、転写後のRNAレベルで複雑な加工(RNA processing; 3’末端の形成、切断、編集など)を経た後に 初めて成熟RNAとして翻訳されるようになります。
     また、蓄積しているほんの一部のRNAのみが翻訳されることから、葉緑体ではRNAレベルでの加工、翻訳のレベルで最終的な蛋白質合成量、 すなわち遺伝子発現量、が決定されます。

    オルガネラ遺伝子発現




     このようなオルガネラ遺伝子発現のRNAレベルでの制御を担う因子として、「PPR蛋白質」が注目されています。 PPR蛋白質は、35アミノ酸の「PPR(pentatricopeptide repeat)モチーフ」十数個の連続で構成されています。 PPR蛋白質の大きな特徴は高等植物で大きなファミリーを形成していることです(シロイヌナズナで450個、イネで650個)。 しかし、他の真核生物では1~10個、原核生物では0個と非常に少ないため、高等植物が独自に進化させていった蛋白質ファミリーです。
     PPR蛋白質がオルガネラ遺伝子の発現を調節することで胚発生、光合成機能、配偶子形成、ストレス応答などの 多様な植物高次生命現象に関わっていることが徐々に明らかになって来ました。 それぞれのPPR蛋白質は異なるRNA分子に結合し、RNAの切断、スプライシング、編集、安定化、翻訳などの 多様なRNAプロセシングを担うことから、遺伝子特異的なRNA機能調節因子であると考えられています。




    PPR



     最近、我々は、PPRタンパク質とRNAとの結合について、PPR蛋白質のRNA認識コードを解読しました。 その結果、PPRモチーフとRNA塩基が一対一の対応関係で結合すること、特定の3箇所のアミノ酸の組み合わせで結合塩基が決定すること、 結合塩基がプログラム化可能であること、を明らかにしました(詳しくは、カスタムRNA(or DNA)結合タンパク質の開発、を参照)。
     PPR蛋白質の核酸認識コードの解読により、植物に含まれる数百個のPPRタンパク質がどの遺伝子に結合するのか、ある程度予測できるようになりました。 また、任意のRNAまたはDNA配列に結合するカスタムPPR蛋白質の開発が可能になりました。医療、農林水産業などの様々な生物系産業への利用が期待されます。
     しかし、PPR蛋白質の分子機能に関する研究はまだ始まったばかりで、多くの疑問点が残されています。PPR蛋白質がどのように働くのか? なぜ、植物のみでこのような蛋白質が必要になってきたのか?どのように増えてきたのか? これらの研究を通して、植物の核とオルガネラの相互協調(対立)関係の謎に迫るために、さらに研究を発展させています。