動物の媒介感染症

媒介感染症の状況 (2025年8月15日 更新)
こちらの情報は、WHOや農林水産省、各種文献などの情報を整理して解説しているものです。

 高病原性鳥インフルエンザ (High pathogeniciy avian influenza: HPAI) は、インフルエンザウイルスのうち鳥類に高い病原性を示すものによって引き起こされる感染症です。我が国では、冬季にやってくる渡り鳥によって国内にウイルスが持ち込まれ、野鳥間での感染拡大と、家禽等への伝搬 (スピルオーバー) が発生し、大きな問題となっています。
 インフルエンザは基本的に呼吸器感染症であり、呼気飛沫やウイルス汚染物の経口摂取によって感染します。現在の日本の養鶏場の多くでは野鳥などが入り込むようなことはなく、家禽における感染には何らかのベクターの関与が疑われています。その候補としてはネズミなどの小動物の他、オオクロバエなどの腐肉食性のハエ類が挙げられます。
 クロバエ類は、鳥や動物などが死亡するとすぐにやってきて、その死肉を摂取します。HPAIで死んだ鳥を食べた場合、ハエは死肉とともに大量のウイルスを取り込むことになります。またクロバエ類は養鶏場の臭いにも誘引されるため、養鶏場内にウイルスを持ち込む可能性があります。クロバエ類は摂食により取り込んだウイルスを糞として撒き散らす他、ハエ自体が鶏などの格好のエサとなるため、鶏との接触機会が多いものとなります。
 HPAIが日本で流行するのは晩秋〜春で、これはオオクロバエの発生シーズンと一致しています。養鶏場におけるHPAI対策として、小動物などの侵入対策の他、ハエ類の侵入に対しても対策が必要になります。
 また、HPAIで家禽が死亡した場合、その死骸にもクロバエ類がたかり、次への伝搬のリスクが発生するため、死骸はすぐに埋葬などの処置をし、ハエがたかっている場合には殺虫剤などにより対策することが必要になります。

 豚熱はClassical swine fever virus (CSF virus) により引き起こされる感染症で、豚やイノシシの感染症になります。1992年以降、我が国での感染事例はしばらくなかったのですが、2018年に感染が報告されて以降は、全国で感染事例が相次いでいます。豚熱は特に野生イノシシ間で流行しているため、経口ワクチンの散布によるイノシシ免疫強化によって感染を抑え込もうという試みがなされていますが、現在のところまだ感染は広がっており、感染症制圧には至っていません。
 養豚での感染も、イノシシからのスピルオーバーによるものですが、養豚場内に感染イノシシが侵入することはまずありません。ですので、鳥インフルエンザ同様、なんらかのベクターが豚での感染に関与していると考えられます。豚熱に感染したイノシシは高確率で死亡するため、腐肉食性のハエ類 (クロバエ類) によって死肉とウイルスの摂食、拡散が発生します。実際に豚熱発生地域ではクロバエから豚熱ウイルスが見つかっており、ベクターとして機能していることが推察されています

 アフリカ豚熱はAfrican swine fever virus (ASF virus) によって引き起こされる豚およびイノシシの感染症です。アジアでは2018年に中国で報告されて以降、爆発的に感染が拡大しており、現在では日本、台湾以外のアジア全域で流行しています。
 豚熱とアフリカ豚熱はウイルスとしては完全に別物ですが、野生イノシシで感染が広がり、それが養豚にスピルオーバーしてくる、という図式については同じになります。
 アフリカ豚熱のベクターとしてヒメダニ科 (soft tick) のOrnithodoros属ダニの存在が知られていますが、国内で豚やイノシシに寄生するOrnithodoros属のダニについては知見が乏しく、ヒメダニによる媒介が大きな問題となることはないだろうと推察しています。一方、豚熱同様、アフリカ豚熱は豚やイノシシで死亡率が高いので、腐肉食性のクロバエ類による伝搬が問題になると予想されます
 豚熱との大きな違いは、アフリカ豚熱では有効なワクチンがない (開発が困難) という点です。通常、ウイルスに感染した動物では免疫が発生するのですが、アフリカ豚熱感染豚では抗体は産生されるものの、ウイルスを中和することができません。そのため、豚熱のような経口ワクチンによる感染拡大防止策がとれないため、そうなる前に如何に国内への侵入を防ぐかという点が大事になります。空港検疫では肉類の持ち込みは厳しく制限されていますが、訪日客が隠し持っていた肉類からASF virusが見つかる事例は多く、今後も監視と対策が重要になります。

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