Study

衛生昆虫とウイルス

「衛生昆虫」とは人や動物に公衆衛生上の害を与える害虫で、病原体を媒介するもの (蚊, マダニなど)、刺咬・毒により害を与えるもの (毒グモ・シラミなど) など数多く存在します。当研究室ではこの中でもとりわけ「節足動物とそれらが保有・媒介するウイルス」に注目して研究を行っています。写真は研究用に実験室で飼育しているヒトスジシマカです。


研究内容
【ウイルス】
主に蚊やマダニなどの吸血性節足動物の生態調査を行いながら, 捕集した個体からの新規ウイルスの分離・機能解析を行っています. これにより, 未知の感染症へ備えるとともに, ウイルスの進化がどのようにして進んでいるのかを解明しようとしています. またウイルス感染における宿主細胞の応答についても分子生物学的解析を行っています.

【ハエ】
畜産現場では高病原性鳥インフルエンザ牛伝染性リンパ腫などの感染症が問題となっています. これらの病原体の運び屋として考えられるのがハエで, 我々はベクターとなっているハエの生態調査やウイルス伝搬様式の調査, そして防除法の開発を行っています.

【マダニ】
マダニは山里や植生の豊かな公園などによく見られ, 吸血によって感染症と原因となる病原体をうつすことがあります. マダニはSFTSウイルスを代表として, 新規病原体を数多く持っています. 我々はマダニの持つ新規ウイルスの探索や機能解析を行っています.

ウイルスの紹介

近年の次世代シーケンサー・メタゲノム技術の発展により, 自然界から数多くのウイルス様配列が発見されるようになりました。我々はこれをさらに推し進めて, 配列だけではなく実際に「生きたウイルス」の分離を行って, 数々の新種のウイルスを分離しました.
しかし, これらの新規ウイルスについては疫学情報がなく実態は不明であるため, 現在その詳細について研究を進めています.

Tarumizu tick virus Fujita et al., 2017
国内のキチマダニより分離されたレオウイルス科コルチウイルス属の新規ウイルス. 12分節のdsRNAをゲノムとするウイルスで, 近縁種はコロラドダニ熱ウイルス. 九州〜東北地方で見つかっているが, 人・家畜等に対する病原性についてはまだ明らかになっていない.

Kabuto mountain virus Ejiri et al., 2018
国内のタカサゴキララマダニより分離されたフェニュイウイルス科フレボウイルス属の新規ウイルス. SFTSウイルスと同様, フレボウイルス属であるが, より詳細にはUukuniemiグループと近縁である. 乳飲みマウスへの継代接種では神経諸症状や致死性を示すが, 人・家畜等に対する病原性についてはまだ明らかになっていない.

Oz virus Ejiri et al., 2018
国内のキチマダニより分離されたオルソミクソウイルス科トゴトウイルス属の新規ウイルス. 分類的には人に対して強い病原性を示すことのあるBourbon virusと近縁であるが, 本ウイルスの人・家畜等に対する病原性についてはまだ明らかになっていない

蚊などの衛生昆虫類が保有しているウイルスはみな病原性を持っているわけではなく, むしろ病原性を持っているウイルスの方が稀です. 実際に解析してみると, そこには機能が予測できないような様々なウイルスが見つかります. 当研究室ではこれらの不思議なウイルスについてもその正体に迫るべく研究を行っています.

Bustos virus Fujita et al., 2017
フィリピンで捕集したヌマカ属蚊から分離された昆虫ウイルスの一種. まだ分類学上の科 (Family) は設定されていないが, 近年発見が相次いでいるNegevirusグループの一種である. Bustos virusの持つ特徴として, 培養細胞における異常に早い増殖速度が挙げられる. 一般にウイルスによるプラーク形成は3~7日ほどかかるが, 本ウイルスは16時間足らずで明瞭なプラークを形成する. Negevirusグループの分子機能についてはほどんど研究がなされていないが, 我々はこのウイルスの持つ特異な増殖能の原因を探求しています.

Shinobi tetravirus / Menghai rhabdovirus Fujita et al., 2018
この2種のウイルスは野外の昆虫ではなく, 培養細胞の中から見つかったウイルスです. Shinobi tetravirus, Meghai rhabdovirusが感染した蚊の培養細胞では見た目上の変化は起こらず, 細胞増殖にも影響を与えません. 一見何の機能も持たないようなウイルスですが, これらのウイルスに予め感染している細胞はジカウイルスやデングウイルスといったフラビウイルス科ウイルスに対して抵抗性を発揮する, という性質を示します. まさに普段は見つからないように忍んでいて, 敵がきたら制圧する, という忍者のようなウイルスなのです.

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