ニワトリ肝臓におけるエストラジオールのコラーゲン合成抑制機構


 コラーゲン線維は細胞外基質の主要成分であり、食 肉をはじめとする畜産物においては硬さ、しなやかさ、あるいは食感といった「質」に影響する要因のひとつです。肝星細胞は肝臓における主要なコラーゲン産 生細胞ですが、成熟したニワトリの肝臓ではコラーゲン線維量と肝星細胞の分布に雌雄差が認められるため(Nishimura et al., 2011)、これらの雌雄差が発現する時期について検討したところ、孵化後4週齢から8週齢にかけて雄が雌よりも有意に大きい値を示すことが分かりまし た。

 これらの雌雄差の発現に関与する因子として性ステロイドホルモンの関与が予想されますが、ニワトリ雄の血中テストステロン濃度は孵化後9週齢まで低いレ ベルにあり(Carrie-Lemoine et al., 1983)、11週齢以降でようやく上昇することから(Driot et al., 1979)、8週齢の段階で雄性ホルモンが肝臓におけるコラーゲン線維の合成を促進する方向に積極的に作用したとは考えにくいところです。そこで雌性ホルモンで あるエストラジオールの血中濃度を測定したところ、4週齢から8週齢にかけて雌で急激に濃度が高くなることが分かりました。

 そこで、エストラジオールが肝臓のコラーゲン線維合成に及ぼす影響について検討するため、5〜8週齢にかけて雄にエストラジオールを、雌にタモキシフェ ンを連続投与したところ、エストラジオール投与雄の肝星細胞領域とコラーゲン含有量が有意に小さくなり、タモキシフェン投与雌では肝星細胞領域が有意に大きく なりました。しかし、雌におけるタモキシフェン投与はコラーゲン含有量を増加させませんでした。

 これらの結果より、エストラジオールはニワトリ肝臓におけるコラーゲン合成を抑制し、 タモキシフェンは雌の肝星細胞においてエストラジオールに対する拮抗作用を持つことが示唆されま す。しかし、タモキシフェンは雌においてコラーゲン量を増加させなかったことから、エストロゲンの完全なアンタゴニストとしては作用しないことが考え られます。今後は、ニワトリ肝臓におけるエストラジオールによるコラーゲン合成抑制機構の解明ならびにタモキシフェンの作用機序の解明を目指します。

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