上野高敏のウェブサイト

  1. スズメバチ事典
  2. 対馬に侵入!ツマアカスズメバチ
  3. 基礎知識と今後の対策

ツマアカスズメバチの基礎知識と今後の対策[2015年9月]

ツマアカスズメバチとは

  • 東南アジア、南アジアから中国南部に至るまで、幅広い分布域を持つ種 。
  • 大きさ的には中型のスズメバチ。オオスズメバチよりも小さく、日本でよく問題となるキイロスズメバチやコガタスズメバチとほぼ同等の大きさ。
  • 繁殖力が高い(=巣が大きい、働き蜂が多い、女王蜂の生産力が高い)。
  • 中国南部周辺の個体は胸部と頭頂部が黒い特徴がある(亜種名 nigrithorax)。
  • この亜種がヨーロッパや韓国、さらには対馬に侵入して問題となっている。
  • 予想外に、温帯域(冬がかなり寒くなる地域)にも適応し、生存できる。
  • 環境の適応性が高く、都市部(ただし緑がそれなりにあるところ)でも増殖する。

何が問題か?

人への刺傷

  • 都市部でも定着し、夏以降は人家やマンションに巣を作ることも多い。
  • その結果、人との距離が近くなり、刺される場合がある。
  • 春から初夏にかけては生け垣や庭木の茂みに巣を作ることがあり、知らず知らずのうちに刺激してしまい、刺される事例が出る(注意:このスズメバチは巣の引っ越しをするタイプ)。
  • 毒性は、他の中型スズメバチとほぼ同様。
  • 他の蜂同様にアナフィラキシーショックを引き起こす場合がある

ミツバチへの影響

  • スズメバチは強力な捕食者だが、本種も同様。
  • 特にミツバチを好みの獲物とし、ミツバチの巣に張り付いて、非常に執拗にミツバチの働き蜂を襲う。
  • 巣内の女王蜂や幼虫は襲わないため、ミツバチの巣がいきなり壊滅することはないが、その執拗さのため、ミツバチに大きなストレスを与える。
  • 本土で養蜂に広く使われるセイヨウミツバチ(蜜蜂には土着のニホンミツバチと外来のセイヨウミツバチの2種ある)の方がスズメバチの攻撃に弱い。
  • 定着し、著しく数を増やせば、ミツバチに悪影響がでるだろう。

環境への影響

  • 強力な捕食者であり、様々な節足動物を狩るため、広く生態系に悪影響が出る恐れがある。
  • 海外の事例では、スズメバチの仲間の侵入により、クモや昆虫が減ってしまったという研究例がある。

本土への侵入について

  • 侵入元としては、対馬、韓国、中国本土が考えられる。
  • しかし周辺の港への航路を考慮すると、韓国からの侵入ルートが挙げられる。
  • 採集された蜂個体を見ると、腹部の黄色部が広いが、このタイプは対馬ではむしろ少ない。一方、韓国ではよく見かける。
  • 遺伝子レベルでの解析なども必要だが、現時点では韓国から入った可能性が高いのではないだろうか。
  • 巣が見つかったことから、侵入したのは女王蜂であり、侵入した季節としては秋から初夏までのころとなる。侵入した年は現時点では不明であるが、侵入後の時間は非常に浅い(去年の秋から今年にかけて入った?)のではないだろうか。

今後の対応

  • 速やかに、トラップの設置や見取り調査などを行い、ツマアカスズメバチの分布状況や密度を(おおまかでもよいので)把握する必要がある。
  • 予想される侵入先の港周辺(下関市と北九州市)で集中的な調査を行うと同時に、福岡県と山口県でも注意喚起を広く行うべきである。なぜなら、港に侵入後、そのまま貨物などに運ばれ、港から離れた場所へ持ち込まれてしまった個体が存在する可能性があるからである。
  • 今年から来年にかけ、集中的な駆除を行う。外来種の駆除においては、初動がその後の結果を左右する。まだ増えていないうちに撲滅するのがベストな対応であり、一度増えだしてからでは、コストも人員もかかる。
  • まだ、侵入した個体数は少ないと信じるが、その場合、十分に根絶可能である。対馬においては、定着が確認された2013年にはすでに対馬北部の広域に広がっており、個体数も多かったため、根絶は不可能な状況であった。

関連リンク