研究内容

情動・社会性・認知機能の季節リズム制御機序とマルチスケールリズムの連関機序

ヒトの気分や社会性には季節リズムがあり、季節変動が顕著な場合は季節性感情障害(冬季うつ病)を発症します。また、認知機能にも季節変動が知られています。これらの季節リズムの根底には、生物が地球上の季節変化に適応して獲得されてきたしくみである光周性が関与しています。冬季うつ病のメカニズムを明らかにするためには、実験動物を用いた基礎研究が重要ですが、マウス・ラットは周年繁殖であるため光周性の研究には用いることができないと考えられていました。しかし、私たちの研究により、周年繁殖性のマウスでもうつ・不安様行動や脳セロトニン神経系、ストレスホルモン分泌には明確な光周性反応があることが解明されました(Otsuka et al., Psychoneuroendocrinology, 2014; Otsuka et al., PLoS One, 2012)。このモデルを冬季うつ病モデルマウスとして、メカニズムの解析や栄養療法の解析を行なってきました(Tahiguch et al., Behavioural Brain Research 2021; British Journal of Nutrition, 2015)。

近年、これらの研究をさらに発展させたマルチスケールリズム研究を展開しています。ヒトの気分や体調は、一日の概日リズムや一年の季節リズムに加えて、有月経女性では約一月の月経リズムが絡む中で調節されています。しかし、概日・季節・性という複数スケールのリズム間相互作用の詳細は不明です。冬季うつ病の有病率は女性のほうが男性よりも3-5倍多いという報告があり、光周性の性差や性周期との関連が示唆されますが、詳細な連関機序は不明です。私たちの研究室では、マウスモデルや独自のモデルを用いて、ヒトや動物の性周期と概日リズムの連関や脳活動リズム測定を専門とする研究者や、数理モデルによる生体リズム理解を専門とする研究者とチーム体制を組み、性依存的なマルチスケールリズム連関機序の解明、ならびに連関を評価するためのバイオマーカーの探索を進めています。本研究により、マルチスケールリズムにともなう冬季うつや月経前症候群等の予測技術開発を目指しています。

本研究は、日本医療研究開発機構 革新的先端研究開発支援事業「性差・個人差の機構解明と予測技術の創出」研究開発領域 AMED-CRESTにより実施しています。

哺乳期の日長調節による成長・代謝および脳神経発達の調節

出生季節により成長後の精神疾患や神経疾患のリスクが異なることが知られています。私たちが見出した冬季うつ病モデルマウスを用いて、胎児期から哺乳期における日長が成長速度や脳神経発達に影響を与え、成長後の体重、情動行動、記憶・学習行動を変化させることを見出しました(Takai et al., Neuroscience, 2018; Uchiwa et al., Physiological Reports, 2016)。このような初期成長期の日長による生体プログラミングのメカニズムについて、DNAメチル化やヒストン修飾といったエピジェネティクな観点から解析しています。また、黒毛和牛を用いて哺乳期の日長を調節することにより、産肉性や肉質を制御する「光ビーフプロジェクト」も進めています。

明暗周期の乱れが概日時計に及ぼす影響の性差および食との関連

体内時計(概日時計)は約24時間周期で刻まれる内因性の生物時計であり、脳の中枢時計と臓器の末梢時計からなります。現代社会ではシフトワークや不規則な生活、慢性的な夜型生活などにより、体内時計の乱れとそれにともなう生活習慣病疾などのリスク増加が問題となっています。

体内時計の乱れと健康状態との関連が性別により異なるかどうかについては、明確には明らかになっていません。例えば、シフトワーカーを対象とした疫学調査では、男性のみで肥満・糖尿病のリスクが高いという報告や、逆に女性でリスクが高いという報告などが複数発表されています。これらの違いには、シフト勤務スケジュール、食事摂取パターン、運動習慣、遺伝的多様性など多くの要因が関与している可能性が考えられます。明暗環境が体内時計に及ぼす影響を明らかにするためには、遺伝的背景や飼育環境を統一した動物実験が必要です。

私たちの研究室では、頻繁に明暗周期をずらして長期的にマウスの時差ぼけ状態を誘導する「慢性的時差ぼけ条件」において、メスの体内時計がオスよりも乱れやすいことを発見しました (Ma et al., Biology of Sex Differences, 2024; 九州大学プレスリリース)。オスでは当該条件で過剰な体重増加や耐糖能異常が生じる一方で、メスでは体重減少が見られるなど、性別により代謝異常の現れ方が大きく異なりました。さらに、精巣を摘出したオスでは、メスのように体内時計が時差ぼけに対して乱れやすくなり、テストステロンを投与すると強靭性が回復したことから、テストステロンがオス特有の慢性的時差ぼけ反応の鍵であることが解明されました。本研究成果は、不規則な生活になりがちであるシフトワーカーや夜ふかし習慣のある人などの健康管理において、性差を考慮する重要性を示しています。現在、概日時計の乱れやすさの性差が食条件によりどのように変化するのかに着目して研究を進めています。

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社会的時差ぼけと体内時計の内的脱同調

特に日常生活で生じやすい体内時計の乱れとして、「社会的時差ぼけ」があります。週末は夜ふかしをして昼間に起床し、平日は授業や勤務のため早朝に無理やり起床するようなパターンです。体内時計のリズムと社会生活のリズムがずれてしまい、時差ぼけの状態になってしまいます。近年の研究で、社会的時差ぼけと肥満や心疾患、認知機能との関連が解明されてきました。

私たちは明暗周期を週のリズムでずらした社会的時差ぼけのモデルマウスを用いて、臓器・遺伝子ごとのリズムのずれ(脱同調)や加齢との関連などを調べています。また社会的時差ぼけを予防改善する栄養療法や生薬の開発を目指しています。

周期的環境におけるユーストレス(快ストレス)の脳内メカニズム

ストレス反応とは本来、身体の内外における変化に対して恒常性を保つための適応反応であり、中立的なものです。しかしストレッサーや認知的な違いに応じて、ネガティブな影響(ディストレス)やポジティブな影響(ユーストレス)を身体に及ぼします。現代社会はストレス社会と呼ばれますが、これは疾患憎悪や生体機能の破綻に関与するディストレスです。一方で、ポジティブなユーストレスは疾病への耐性強化や治癒力加速に繋がりますが、生体機序は不明です。

私たちの研究室では、周期的な環境変化をうまく利用すると、うつ・不安様行動が低減できることや好奇心行動が増加することを独自に見出しました。この「ユーストレスマウスモデル」を用いて、ユーストレス下における生体制御系の網羅解析を行い、人工制御技術の創出や人への応用を目指しています。

本研究は、科学技術振興機構 創発的研究支援事業により実施しました。

時間栄養学と脳機能およびアミノ酸

体内時計と食事や栄養との相互作用を研究する学問として、時間栄養学が発展してきました。私たちの研究室では、特に食事時刻と脳機能の関連や、アミノ酸栄養による生体機能の調節について、マウスモデルや細胞モデルを用いた研究を行なってきました。

多忙な現代社会では、朝食欠食や遅い時間の夕食などの不適切な食生活になりがちです。不適切な時刻の食事は、概日時計を破綻させる一因であり、肥満や糖尿病、精神疾患のリスクを高めてしまいます。近年、適切な時間帯のみに摂食を限定する時間制限摂食により、体重増加やメタボリックシンドローム症状の予防・改善ができることが報告されています。

私たちの研究室では、朝食をとり夜は休息する「朝型摂食パターン」と、朝食をとらず休息期に夜食をとる「夜型摂食パターン」のマウスモデルにおいて、記憶・学習行動や神経形態への影響を調べています。また、多忙な現代社会では生活スタイルや勤務・介護等により、不規則な食生活にならざるを得ない場合が多いことも事実です。私たちは、夜型の食事リズム下でも脳機能を低下させない機能性食品の探索も進めています。

アミノ酸はタンパク質の構成成分となるのみではなく、様々な機能性を有します。私たちはこれまでに、体内時計の光リセットを調節するアミノ酸や、ホルモンの日内変動を調節するアミノ酸などを解明してきました(Yasuo et al., Journal of Nutrition, 2017; Matsuo et al., Chronobiology International, 2015)。さらにアミノ酸の生体機能調節メカニズムについて、培養細胞を用いた研究を行なっています。

九州大学大学院農学研究院

代謝・行動制御学研究分野

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