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赤潮藻類の生態・毒性

 水産養殖業において赤潮は非常に大きな問題となっており、福岡近郊の港だけでも毎年数億円から数十億円単位での産業被害が発生しています。赤潮は主に海の富栄養化により植物プランクトンが異常増殖することによって発生します。赤潮が発生した際には、植物プランクトンが魚のエラにつまり、または植物プランクトンによる有毒物質が魚のエラに炎症を引き起こし、魚が窒息死したり、植物プランクトンが海水中の酸素を大量消費することで海が酸欠状態になったりすることで、魚が大量死してしまいます。そのため、水産養殖業では赤潮の発生予測やその対処法の開発・発展が非常に強く望まれています。
 そのため、本研究室では現場海域での植物プランクトンのモニタリングを行うと共に、赤潮の原因となる藻類(ラフィド藻シャットネラ、珪藻タラシオシラ、渦鞭毛藻カレニア)の生態や魚への毒性についてオミックス解析や魚類の行動解析を用いて研究を行っています。

化学物質の毒性評価

 現在、海や川、湖などの水環境中から農薬や医薬品などをはじめとした様々な化学物質が検出されています。これらの多くは私たち人類の活動により環境中に流入したものであり、水生生物へ毒性を示すものも少なくありません。水環境を保全するためには汚染物質が水生生物へ与える影響を適切に評価する必要があります。これまで毒性評価は生物の死亡を毒性の基準としていましたが、近年になって直接的な死亡を引き起こさなくても行動影響(行動の変化)を通して間接的にその個体の、あるいは集団の死亡を招いてしまう「生態学的な死」が着目されるようになりました。しかしながら、これまで生態学的な死を定量的に観察し毒性評価に応用した事例はありません。
 そのため、本研究室では「生態学的な死」を毒性評価の指標として適用することを目的とし、モデル生物(メダカ)の行動特性に着目した毒性評価手法の開発と検討を行っています。具体的には、メダカの天敵応答反応や群れ形成行動、攻撃行動などを簡易的に定量化する手法を検討・開発し、その評価手法を用いて化学汚染物質の毒性評価を行っています。

化学物質とマイクロプラスチックの複合毒性に関する研究

 現在、水環境中ではマイクロプラスチックと呼ばれるプラスチック粒子(直径 5 mm以下のプラスチック)による環境汚染が非常に大きな問題となっています。マイクロプラスチックは一次マイクロプラスチックと二次マイクロプラスチックに分けられ、一次マイクロプラスチックは製品製造やその目的により元々小さいサイズのマイクロプラスチック(プラスチック製品製造のためのレジンペレットや歯磨き粉の中のマイクロビーズ等)のことを示し、二次マイクロプラスチックはペットボトルやビニール袋などのプラスチック製品が自然環境中で劣化して小さくなったものを示します。プラスチックには化学物質を吸着させる性質があることから、水環境中ではマイクロプラスチックが化学物質を吸着した状態で浮遊していることが予想されますが、その毒性や生物への影響についてはまだ未解明の部分が多くあります。
 そのため、本研究室では化学物質とマイクロプラスチックの複合毒性について、暴露試験や行動解析、オミックス解析による生体内での解析に加え、分析化学と数理モデルを使用して環境中での影響を評価しています。

環境汚染モニタリング

 環境問題について研究を進めるうえで、実環境中でのモニタリングは欠かすことができません。水環境中では、河川からの流入、および海洋からの漂着が起きる沿岸域での環境汚染が大きく懸念されており、沿岸域において化学物質やマイクロプラスチックがどれくらいの濃度で存在するのか、また生体内へどれくらい蓄積しているのか、つまりは沿岸域での環境汚染の実情を探る研究が必要とされています。
本研究室では、環境汚染のモニタリング生物としてフナムシに注目しています。フナムシは日本だけでなく、世界の沿岸域に広く生息しており、かつ、藻類や生物の死骸など様々なものを食べるその貪欲な食性から海の掃除屋とも呼ばれており、沿岸域の物質は最終的にフナムシにたどり着くと言っても過言ではないかもしれません。
 そのため本研究室では、フナムシをモニタリングすることにより、沿岸域の環境汚染について地理的に広い範囲をモニタリングすることが可能になると考え、フナムシを使用した環境汚染モニタリングを行うと共に、その手法を発展させるべく研究を行っています。

新規魚類リポカリンタンパク質TBT-bpsの機能解析

 強力な内分泌撹乱物質(環境ホルモン)であるトリブチルスズ(TBT)を結合し、魚の体外へ排出する機能をもつタンパク質TBT-bps(tributyltin-binding proteins)をヒラメの血中から発見しました。塩基配列およびアミノ酸配列の解析によりTBT-bpsはリポカリンと呼ばれる結合・運搬タンパク質の一種であること、また、ヒラメだけでなく多くの魚種でTBT-bpsが発現していることが明らかになりました。
 現在、遺伝子編集を用いた生体内(メダカ)での機能解析や組換え体を使用したin vitroでの機能解析を進めています。その結果、TBT-bpsは化学物質と結合して、その毒性を弱めている(化学物質の排出を促している)ことが分かり、さらに魚類の免疫機構への関与も示唆されています。また、有毒フグの体内に存在するフグ毒結合タンパク質PSTBPsはTBT-bpsが分子進化したものであることが明らかとなり、フグの毒化への関与も示唆されています。現在、本研究室では様々な分子生物学的手法を使用してTBT-bpsの未知の機能を解明しています。