テーマ紹介: 乳酸菌バクテリオシンの食品保存料や抗菌剤としての利用

乳酸菌が生産するバクテリオシンは、(1)ヒトに対する毒性がなく、(2)体内や環境中において分解されやすく、(3)耐性菌が出現しにくいといった特性から、人体や環境に優しく安心して使用できる抗菌物質として注目されている。発酵食品等を通じて乳酸菌がとくに食品との関わりが深い微生物であることから、食品保存料としての利用が期待され、広く研究が進められてきた。さらに近年では、食品と同様に高い安全性が求められる様々な用途にも乳酸菌バクテリオシンの利用が期待されている。我々は、日本で唯一食品保存料としての使用が認められているナイシンA(図1)を中心に、産学官の研究機関との共同研究を通じて、乳酸菌バクテリオシンの食品保存料や抗菌剤としての実用に向けた検討を進めている(論文1~3)。

ナイシンAは非常に優れた抗菌物質であるが、実用に向けては、高いコストや安定性、グラム陽性菌に限定された抗菌スペクトルなどが障壁となる場合がある。そこで、高生産法や高効率な回収法を確立したほか、用途に合わせて、安定性の向上や抗菌スペクトルの拡大に有効な種々の物質とナイシンAとの組み合わせを検討し、ナイシンAを利用したウシ乳房炎の予防剤や治療剤等を開発した(論文4,5)。

株式会社優しい研究所と株式会社トライフとの共同研究で、種々の天然由来の植物エキスの中から相性の良い成分をスクリーニングし、ナイシンAに梅エキスを配合した口腔用抗菌剤であるネオナイシンRを開発した(論文6,7)。梅エキスの配合によって、ナイシンAではグラム陽性菌に限定される抗菌スペクトルがグラム陰性菌にも拡大され、ネオナイシンRはグラム陽性菌の虫歯菌だけでなく、グラム陰性菌の歯周病菌にも有効である。また、ネオナイシンRは、優れた殺菌力をもちながらも飲み込んでも安全という優れた特性を有している。

ネオナイシンRの特性を活かし、他も全て天然可食成分からなる口腔ケア剤であるオーラルピースR(ジェル・スプレー)が商品化された(https://oralpeace.com/)(図2)。オーラルピースRは飲み込んでも安全で、吐き出しやうがいが難しく、誤嚥の恐れのある高齢者や障がい者などの口腔ケアに有効である。また、ペットやアウトドア向けの商品も開発された。さらには、バラの花から抽出した精油(ローズ油)との相乗効果によって真菌にまで抗菌スペクトルを拡大したネオナイシン-eRが開発され、オーラルピースRがリニューアルされた。




発表論文

【発表論文】

1. 石橋直樹, 善藤威史, 園元謙二. 乳酸菌バクテリオシン―戦略的な探索・発見・活用とゼロエミッションPJまで―. 日本乳酸菌学会誌, 22(1), 38-48 (2011.3).

2. 善藤威史, 石橋直樹, 園元謙二. 乳酸菌バクテリオシンの探索と利用. 日本乳酸菌学会誌, 25(1), 24-33 (2014.3).

3. Perez RH, Zendo T, Sonomoto K. Novel bacteriocins from lactic acid bacteria (LAB): various structures and applications. Microb Cell Fact. 2014 Aug 29;13 Suppl 1(Suppl 1):S3. doi: 10.1186/1475-2859-13-S1-S3. Epub 2014 Aug 29. PMID: 25186038; PMCID: PMC4155820.

4. 北崎宏平, 馬場武志, 古賀康弘, 桑野剛一, 福田浩章, 河田恵美, 高巣祐介, 竹花稔彦, 古賀祥子, 永利浩平, 島田信也, 農 新介, 林 龍鶴, 前田幸子, 川崎貞道, 善藤威史, 中山二郎, 園元謙二. ナイシンAを利用した酪農分野における牛感染症防除. FFIジャーナル, 215(4), 449-456 (2010.11).

5. Kitazaki K, Koga S, Nagatoshi K, Kuwano K, Zendo T, Nakayama J, Sonomoto K, Ano H, Katamoto H. In vitro synergistic activities of cefazolin and nisin A against mastitis pathogens. J Vet Med Sci. 2017 Sep 12;79(9):1472-1479. doi: 10.1292/jvms.17-0180. Epub 2017 Jul 29. PMID: 28757508; PMCID: PMC5627315.

6. 角田愛美, 永利浩平, 善藤威史. 飲み込んでも安全な乳酸菌抗菌ペプチドの効果と臨床応用. フレグランスジャーナル, 44(3), 24-30 (2016.3).

7. 永利浩平, 園元謙二, 善藤威史, 手島大輔. 乳酸菌由来抗菌ペプチドを利用した天然抗菌剤の技術開発. 化学と生物, 58(1), 34-39 (2020.1).

メンバー紹介・研究テーマ

【2020年度】