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研究報告

寄主転換が発育に与える影響
遺伝子発現解析
総括

夏眠用の小屋を作製

アルファルファタコゾウムシは年1回の発生であり、5~6月に羽化した成虫は、その後11月頃まで休眠(夏眠)する。継続して飼育するため夏眠用の小屋を作製し、夏眠後の実験に備えた。

作製中 完成!

寄主転換が発育に与える影響

飼育中

5月に野外のウマゴヤシから採集した集団からウマゴヤシで個別飼育を行い、夏眠が明けた11月から雌雄を交配、産卵させ、同じ雌雄ペアの子(兄弟姉妹)をウマゴヤシで飼育した。翌年3月にコントロール、近縁ホスト、遠縁ホストのいずれかを個別に与えた。

体重増加はコントロールで平均1.8倍、近縁ホストで2.7倍、遠縁ホストで1.2倍と、ホストシフトとホストジャンプでは増加程度が異なった。

遺伝子発現解析

RNA-seq

体重測定後の個体からAGPC法でtotal RNAを抽出し、ライブラリー作成後、次世代シーケンサーMiSeq(Illumina社)によりペアエンドで網羅的なmRNAシーケンス(RNA-seq)を行った。

6サンプル合計約2,084万本リードのうち、クオリティースコアによるトリミングによって得られた約629万本のリードを用いてde novoアセンブルを行い、約9万本のコンティグ(平均725bp)が作成された。

発現量解析

精製したコンティグに対して各サンプルのシーケンスリードをマッピングし、サンプルごとの遺伝子発現量を解析した。

コントロールホスト食に比べ、近縁ホスト食では10倍以上発現変化する遺伝子が60個、100倍以上は3遺伝子のみ検出されたのに対して、遠縁ホスト食では10倍以上が146遺伝子、100倍以上が19遺伝子において検出され、近縁ホスト食に比べて多くの遺伝子発現が変動していることが判明した。

相同性解析

さらに遠縁ホストにおいて100倍以上変化した遺伝子(コンティグ)をデータベースによって相同性解析した結果、抗微生物ペプチドと相同性を示すコンティグが多く(7個)含まれていた。他にも発現量が遠縁ホスト食によって増加したのは、分解酵素、変態抑制タンパク質、構造タンパク質、分解酵素阻害剤との相同遺伝子だった。

総括

以上の結果から、アルファルファタコゾウムシは遠縁ホストに転換する際、ホスト植物に含まれる毒性物質に対して多様な解毒、消化、生体構造の発現を活性化させる一方で、発育を抑制したと考える。そして、狭食性植食性昆虫においては、近縁ホストよりも遠縁ホストへの転換はより多くの発現変化を伴い、変態へのコストがかかることが解明できた。

ホストシフトのような生物可塑性は、種分化の端緒になりうる他、生態系の多様性維持において近年その役割が注目される。広食性昆虫では、タテハチョウにおいて異なるホスト食でのRNA-seqによる遺伝子発現の様相が近年発表されたが(Celorio-Mancera et al., 2013)、単食性や狭食性昆虫では未解明だった。この成果は、狭食性昆虫において普段ほとんど利用されていない遠縁の植物へのホストシフトにも着目し、遺伝子発現変化の全様を解明したという点で、世界初で重要なものである。

今後は、狭食性昆虫ヨツモンマメゾウムシに(寄主利用できない)ダイズ由来のタンパク質分解酵素阻害剤を与えた場合(Chi et al., 2009)、および広食性昆虫タテハチョウにおいて異なるホストを与えた場合(Celorio-Mancera et al., 2013)と遺伝子発現パターンを比較し、狭食性昆虫と広食性昆虫のホストシフトの本質的な違いを解明したい。