研究内容

背景

植食性昆虫によるホスト(寄主)シフトは系統分化を促す要因のひとつであり、植食性昆虫の多様化につながる。しかし、雑草の生物的防除資材(天敵)として利用される昆虫の中には、導入後に防除対象の植物の同属種、あるいは亜科を超えた植物にホストシフトし、問題になっているものもいる。

研究目的

ホストシフトやホストジャンプの最初の一歩は、遺伝的変化を伴わない行動的変化や生理的変化、つまり表現型可塑性(遺伝子の変化なしに表現型を環境に応じて変化させる能力)によると考えられる。

ホストジャンプは、ジェネラリストだけでなくスペシャリストの昆虫でも稀に観察される。不適だった新規寄主を人為的に利用させ続けると、数世代で生存率が上がる(=適応する)ことが分かっている。最近になって、新規寄主への適応が済んだ集団では、遺伝子の発現量が適応前と異なることも分かってきた。しかし、新規寄主利用の初期に起きている遺伝的な変化を伴わない遺伝子発現の様相(遺伝子発現領域や発現量)の変化についてはあまり調べられていない。また、表現型の可塑的変化には、祖先集団が利用していた寄主植物や同種個体、共生生物との関係が無視できない。一方、ホストジャンプの起こりやすさを左右する要因の相対的重要性や交互作用についても、全容は明らかになっていない。

そこで本研究では、野外でホストシフトが確認されているマメゾウムシとタコゾウムシを用い、室内実験でホストシフトを起こさせ、遺伝子の発現と系統的歴史および相互作用生物の効果について法則性を発見することを目指す。また、法則性を利用したホストシフト後の実際の生物群集への影響を予測し、これら2種の雑草の天敵または作物害虫としてのリスク管理に提言することも視野に入れる。