テーマ紹介:インビトロ腸内細菌叢培養モデルによる食成分の健康シミュレーション
研究内容:
腸内には、数百種・数十兆個という細菌群が共生しており、食物の消化残渣を強力に発酵しながら増殖している。このような腸内フローラが人体にもたらす影響は多大で、優良な腸内フローラを維持することにより健康長寿を図ったり、悪化した腸内フローラを改善させて疾病治癒の加速を図るためのライフサイエンスが隆盛している。特に、食成分が腸内フローラにより、どのように利用され、どのような代謝物が生産されるかを実験により把握する試みは多く行われている。しかし、ヒトの腸内フローラには個人差があり、食と腸内フローラの関係について、画一的な実験結果を得ることは難しいのが現状である。そこで、我々は、まず、日本人の腸内細菌叢パターンを調査し、インビトロでそれらを調製し、それを用いた食の評価系を構築することにした
我々のこれまでの日本人腸内細菌叢の調査研究から、日本人腸内細菌叢は大きく7つのタイプ(Microbiome Type: MT)に分けられることが示された。7つのMTはそれぞれ食習慣や生活習慣と関連しており、また、それらの短鎖脂肪酸生産能や胆汁酸代謝能に違いが見られた。そこで、我々は、これらの7つの細菌叢を構成する主要細菌種を混合した細菌カクテルを合成することを着想した。しかし、腸内細菌の中には、難培養性のものが多く、分離困難なものが多い。一方、近年、我々は、腸内細菌の中でも最も占有率が高いが、難培養性細菌が多い群であるクロストリジア綱細菌が胞子を形成し、その胞子が胆汁酸により発芽誘導されることに着目し、胞子画分より高効率に細菌を分離する方法を確立している (ref.1 and 2)。これまで、その手法により日本人腸内細菌優占種の分離培養に努め、7つの合成MTの構築の準備がほぼ整ったので、それらがインビボでの機能性を反映するかを確認し、各食成分にどのように反応するか研究を展開していく予定である (図1)。