上野高敏のウェブサイト

  1. スズメバチ事典
  2. 九州・沖縄地方のスズメバチ
  3. コガタスズメバチ

コガタスズメバチ

和名 コガタスズメバチ
学名 原名亜種 Vespa analis Fabricius, 1775
日本本土亜種 Vespa analis insularis Dalla Torre, 1894
英名 yellow-vented hornet
原産地 原名亜種 インドネシア・ジャワ島
日本本土亜種 北海道
亜種 沖縄亜種・八重山亜種

分布

コガタスズメバチの原産地(種として初めに記録・記載された場所)はインドネシアのジャワ島で、スズメバチとしては小型種になります。

コガタスズメバチの沖縄亜種(奄美産)

インド、東南アジア各国、中国、シベリア、台湾など、アジア各地に広く分布しますが、頭楯の下部中央に弱い歯上の突出があることで、東洋の全てのスズメバチから区別可能です。

種小名の『analis』は『輪状の』という意味で、腹部の縞模様のことを指し示すと思われます。「シマシマ模様のスズメバチは他にもいるのになぜ?」と思われるかもしれませんが、コガタスズメバチは、18世紀の当時、シマシマ模様のスズメバチとして初めて名前が付けられた種類なのです。

日本本土産は、原名亜種や他の亜種と区別できるということで『insularis』(『島の』という意味)という亜種名が付けられており、本州以南に分布します。屋久島や種子島にもいますが、トカラ列島での分布状況がよく分かっていないようです(一応、古い標本はあるようですが)。

いずれにしても、本亜種は日本本土固有のコガタスズメバチとなります(海南島(!?)にも生息すると記録している文献がありましたが…)。

緑が少なくなった都会周辺の環境にも柔軟に対応できるため、目にすることの多い種です。なお日本からは、琉球列島固有の2亜種も認められています。

原名亜種はインドネシアのスマトラ島、バンカ島、ジャワ島西部に産します。

学名の変遷

日本産の本種は当初、Vespa japonica と1968年に命名され独立種扱いでしたが、この『japonica』という名前が日本産オオスズメバチに対して既に使われていたたため、1894年に Dalla Torre により新しく insularis と命名されました。その後、独立種から analis の1亜種へと降格されました。

形態

早春、日光浴を楽しむ女王蜂

体サイズは女王蜂でせいぜい3センチ程度、働き蜂(ワーカー)なら2センチ強から2.5センチ程度といったところです。

お腹のシマシマ模様が目立つ種類で、腹部先端部は黄色です。

斑紋パターンはオオスズメバチとほとんど同じですが、はるかに小型です。ただ、オオスズメバチの働き蜂にもずいぶん小さいものがいる一方で、かなり大きいコガタスズメバチがいますので、大きさだけでいつも完璧に区別できるわけではありません。

攻撃性

本種は人里近い環境に多く、都市部でもよく見かけます。刺傷被害例の多いスズメバチで、福岡周辺では駆除依頼件数がキイロスズメバチを大分上回り、スズメバチの中で最大となっています。コガタスズメバチの営巣場所が庭木の茂みや家屋のひさしなど、人と接触する機会の多い場所であることが多いため、駆除依頼件数が多いものと思われます。

本来は攻撃性の低い種で、巣がある木を揺らすなどしない限り、知らずに巣に近づいても警告すらしてきません。そのため巣の存在に長い間気がつかず、巣が大きくなった頃に庭木の手入れや剪定をしてうっかり巣を刺激してしまい、一斉攻撃を受けることになるようです。

蜂の活動が盛んになる頃の巣でも、バレーボールより小さめくらいの大きさから、せいぜいバスケットボールくらいの大きさまでで、オオスズメバチやキイロスズメバチの巣に比べてはるかに小型です。また、巣の表面には蜂がいないことがほとんどで、わずかに入り口の部分に蜂の顔がのぞいているというのが普通です。

巣も大きくなく、蜂もほとんど見えないからといって、油断して刺激を与えてはいけません。巣を刺激すると、あっという間に多数の働き蜂が巣の外に飛び出してきます。与える刺激の程度によっては、いきなり攻撃される羽目になります。

習性

コガタスズメバチの廃巣

創始期の巣は、徳利を逆さまにしたような特徴的な外見をしていて、その形状から容易に本種の巣であることが判別できます。

下方に延びた口の部分は働き蜂が育ってくると取り払われてしまい、普通の球状の形をした巣になります。

庭木や生け垣の茂み、屋根のひさし部分によく営巣します。また、屋外の小屋やガレージの屋根など、開放的な場所にも見られます。

営巣場所が人と接触する機会が多い場所である反面、まわりが枝や葉で覆われた空間に作られているため、その存在になかなか気がつかないことも多いようです。営巣規模も小さく、巣がかなり発達した状態であっても働き蜂の個体数はさほど多くなく、巣に出入りする個体をたまにしか見かけないせいもあるでしょう。

事前に巣の存在に気がついたなら、巣のある木に震動を与えないとか、数メートル以内に近づくことを避けるようにしておけば、本種に刺されることはほぼないと思われます。

また巣の防衛のため警戒行動に出た個体がいたとして、何十メートルも追いかけてきたりしません。庭や家の周辺にたびたび本種が飛来するのであれば、庭木の茂みの中に巣がないか確認しておくといいでしょう。

女王蜂1匹による単独営巣期や、まだ働き蜂の数が少ない時期であれば、駆除は容易です。特に近づくこともない場所であれば、無理をして駆除を行う必要はありません。

食性

大型の獲物クロアナバチを捕らえた働き蜂

食物を探している時など単独行動をしている場合であれば、向こうから人間を攻撃してくることなど決してありません。無視していれば良いのです。向こうもこちらに特に関心を示すことなく飛び去っていくでしょう。

キイロスズメバチ同様、様々な節足動物を獲物にします。アシナガバチの巣を攻撃しその幼虫や蛹を獲物にすることもあります。

甘い物も大好きで、樹液や、アブラムシ、カイガラムシ、キジラミなどの昆虫が出す甘露に集まります。また訪花して花の蜜を舐めることもあります。

ただし、働き蜂が花の周りをうろついているのは蜜が目的ではなく、蜜を舐めに来る他の昆虫を狩るためであることがほとんどです。

本種は、巣の防衛に関してはあまり攻撃的でないのですが、防衛力そのものは高く、あの強力なオオスズメバチの攻撃をはねのける能力を有します。餌場周辺では自分の体より大きな他のスズメバチを追い払うなど、意外に攻撃的な面を見せたりもします。

亜種

日本産のコガタスズメバチは3亜種に分けられます。日本本土産以外には、琉球列島にも産するのですが、八重山諸島と沖縄諸島の本種はそれぞれ別亜種扱いになっています。

琉球列島の亜種は以下の通りです。

果実を食す沖縄亜種(沖縄本島南部産)

  1. 沖縄亜種 Vespa analis eisa Yamane, 1987

    分布:奄美大島、加計呂麻島、徳之島、沖縄本島

    全体的にオレンジ色が強く、沖縄本島産と奄美群島産では若干色調が異なります。

    奄美産では頭部は赤みのあるオレンジ色、沖縄産では赤褐色で、いずれも本土産よりもはるかに濃い色の頭部をしています。

    奄美では4月上旬に活動を開始します。越冬場所は倒木の中です。

  2. 八重山亜種 Vespa analis nagatomii Yamane, 1987

    分布:石垣島、西表島

    外見的には、亜種 parallela に近いです。腹部の黒い帯はかなり茶色を帯びているほか、頭部は本土亜種よりも明るい黄色く、脚も赤っぽいです。

海外産コガタスズメバチの既知の亜種は以下の通り。

  1. ssp. analis(原名亜種)

    分布:ジャワ島西部

  2. ssp. tenebrosa Buysson

    分布:ジャワ島東部、バリ島

  3. ssp. parallela Andre

    分布:中国北部、朝鮮半島、シベリア、台湾?

  4. ssp. nigrans Buysson

    分布:インド(シッキム、アッサム)、ネパール、ミャンマー、中国南部、台湾、インドシナ、マレーシア

  5. ssp. tyrannica Smith

    分布:シンガポール

関連リンク