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ツマグロスズメバチ

和名 ツマグロスズメバチ
学名 Vespa affinis Linnaeus, 1764
英名 Lesser bande hornet
原産地 不詳(Calidis regionibus = 暖かい地域)

分布

ベトナム産の ssp. indosinensis

東南アジアではよく見かける種

ツマグロスズメバチは広大な分布圏を持ち、西はインド、スリランカから、東の中国、台湾、日本(八重山諸島)に至るまで、そして南はインドネシアの各島々からニューギニアと周辺の島嶼にまでと、とても広い範囲に棲息しています。東南アジアでは、平野部から低山帯の人里近い環境に普通に見られる種です。

原名亜種である V. affinis affinis は、アジア大陸部に分布し、中国(南部)、台湾、ベトナム、ミャンマー、スリランカ(?)、インドから知られています。

さらに、インドネシアからニューギニア方面では各地に特異的な亜種が認められており、現在までに9~10亜種に分類されています。オーストラリアやニュージーランドにも移入し定着しています。

東南アジアにはよく似たネッタイヒメスズメバチ V. tropica が産しますが、ツマグロスズメバチは体表の毛がまばらで細いのですが、V. tropica では強靱な堅い剛毛で覆われています。

日本では宮古島以南の琉球列島に分布し、宮古島周辺の小島や与那国島など小さな島にも生息してます。

八重山諸島の石垣島と西表島には3種のスズメバチが産しますが、見かけるスズメバチは本種であることが多く、当地では普通種で、町中や海辺でも見かけます。他の2種(コガタスズメバチとヒメスズメバチ)はむしろ個体数が少ないようです。

日本産のツマグロスズメバチは原名亜種に含まれるとされます。しかし、大陸産よりも頭部と胸部(そして羽も)の色合いが薄くて黄色味が強く、また、台湾産も同様に色が明るいといった特徴があります。台湾と八重山産の本種は、将来的に亜種として区別されるかもしれません(この場合、 formosana Sonan, 1927 が復活する?)。

形態

女王蜂で2センチ台後半と中型クラスですが、働き蜂なら2センチ前後とかなり小ぶりです。

ツマグロスズメバチの新女王蜂

目の前に飛来
(石垣島於茂登(オモト)岳山中にて)

濃い飴色の体に薄いレモン色の太い帯を腹部に持つ、ツートンカラーの美麗種(より正確には、腹の後半部はかなり黒いので3色)です。

日本産の中では特徴的な斑紋パターンで、容易に区別でき、かなり離れたところからも本種とわかります(東南アジアでは似た種がいるので、同定には注意が必要)。

攻撃性

獲物を探す個体

腹部のレモン色の帯がとても目立つ。

南の島に旅行に出かけた場合、この種に遭遇することもあるでしょう。

普通に食物探しをしている最中の個体に攻撃されることはありませんので、過度に怖がる必要はありません。無視するか、いかにも『熱帯のスズメバチ』という感じの本種をゆっくりと観察してみるのも良いでしょう。

習性

営巣

ツマグロスズメバチは、倒木や立ち枯れの中に潜り込んで越冬します。

越冬から目覚めた新女王は樹木の枝に巣を設けますが、まずは高いところには巣を作らず、地上から1メートル未満の場所に営巣することが多いといわれています。その後、引っ越しをして高い場所に巣をかまえることがあります。

新女王蜂は徳利を逆さまにしたような形の巣を作ります。このような形態の巣を作るのは、本種とコガタスズメバチだけです。

スマトラなど熱帯域では巣が非常に大型化し、育房の数は数千を超える場合もあるようで、攻撃性も高いらしいですが、より北の分布域にあたる日本産のツマグロスズメバチは、さほど攻撃的ではないと思います。ただ、人家に近い場所(庭や畑)によく巣を作るため、作業中にうっかり巣を刺激して刺される例がかなりあります。

食性

様々な昆虫の捕食者です。また蛙やトカゲの死体に集まり、その肉を利用することもあります。熟した果物も好きで、そういった甘く発酵臭がする果物に誘引されてきます。

亜種

基亜種以外の既知の亜種は以下の通り。

  1. ssp. continentalis Bequaert

    分布:インド、ミャンマー、スリランカ、タイ?

  2. ssp. indosinensis Perez

    分布:ベトナム、タイ、カンボジア、ラオス、シンガポール、ミャンマー南部、マレーシア、スマトラ、ニアス島、ジャワ西部など

    原名亜種と比べ、全体的に黒い。羽も先端部を除いて黒い。

  3. ssp. hainanensis Bequaert

    分布:海南島

  4. ssp. alduini Gueriin

    分布:インドネシア・ブル島

  5. ssp. piece Buysson

    分布:ニューギニア島南部

  6. ssp. nigriventris van der Vecht

    分布:パラワン島(フィリピン)

  7. ssp. archboldi van der Vecht

    分布:ニューギニア島北部

  8. ssp. rufonigrans van der Vecht

    分布:ボルネオ島、ワイゲオ島、セレベス(スラウェシ)島、モルッカ北部

  9. ssp. moluccana van der Vecht

    分布:モルッカ諸島南部(サパルア島、アンボン島、アル島、カイ島)

  10. ssp. alticincta van der Vecht

    分布:ニューブリテン島、ケイ島

他にフィリピンのミンダナオ、ルソン、サマールにも分布するようですが、亜種名は未確定のようです。

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