樹液にそそられて -生垣や庭木には甘い誘惑がある-
スズメバチは樹液も餌としています。適度に発酵した樹液は彼らの好物であり、重要な炭水化物源となっているのです。
特に夏の時期は、クワガタムシ、カブトムシ、カナブンなどの昆虫同様、クヌギ、コナラ、タブノキ、アベマキ、ハルニレなどの広葉樹から出る樹液にスズメバチがよく集まってきます。
また秋には、夏期とは異なる樹種の樹液に集まることがよくあります。その中には庭木や生垣として植えられるプリペット(セイヨウイボタノキ)、ネズミモチ、シマトネリコ、ベニカナメモチなどの樹種が含まれます。特にプリペット、ネズミモチ、シマトネリコの3樹種にスズメバチが来集するということはほとんど知られていないのか、情報としてあまり共有されていません。
生垣のプリペットのキイロスズメバチ
樹液を舐めるため頻繁に飛来していた。
ネズミモチに来集したオオスズメバチ
同じ巣の仲間同士は仲が良い。
ネズミモチに飛来したオオスズメバチ
枝から白い樹液が出ており、それが葉っぱの上に落ちたのを舐めている。
生垣のフクギに飛来したツマグロスズメバチ
(沖縄県石垣市)
カメムシとの関係
シマトネリコの樹液を吸うチャバネアオカメムシと、その吸汁痕からしみ出た樹液に興味を示すコガタスズメバチ
福岡市において観察した例では、プリペット(セイヨウイボタノキ)、ネズミモチ、シマトネリコの3樹種の樹液は、チャバネアオカメムシ、ツヤアオカメムシ、クサギカメムシ、キマダラカメムシといったカメムシ類が吸汁した痕からしみ出たものでした。
カメムシ自体はあちこちに植えられているそれらの樹種にまんべんなく付いているのですが、水をたくさん吸い上げている木でないと樹液が吸汁痕からしみ出さないためか、スズメバチが来集する木は限られていました。
2013年は各種樹木に寄生するカメムシが大発生した年でもあり、新興住宅地の生垣や庭木に樹液を求めるスズメバチが例年になく頻繁に飛来していました。これらのスズメバチは単独行動中ですので、人を刺すことはありません。1メートル程度の距離に近づいたとしても、スズメバチは人間に関心を示すことすらありません。
生垣に利用されている樹種としては、ベニカナメモチ(レッドロビン)にもスズメバチがやってくることがあります。これはメイガ(ガの仲間)の幼虫が新芽の部分に侵入することにより侵入部位から樹液がしみ出てくるからです。それらの樹液には、スズメバチ以外だとシロテンハナムグリやルリタテハといった昆虫も来集します。
晩秋のスズメバチは餌集めに必死
晩秋ともなるとスズメバチたちの餌は急激に不足してきます。一方、働き蜂にとっては新女王蜂をいよいよ独立させ、世に送り出す必要があります。新女王に十分な餌を与えなければ、次世代を担う彼女たちは無事に冬を乗り切ることができなくなるでしょう。
つまりスズメバチの働き蜂たちが、最後の総仕上げのため、餌集めに苦労している時期なのです。人間なんかに構っているヒマなどあるはずもありません。
ですから、周囲に巣がない状態であれば、スズメバチを見かけても怖がる必要はありません。そっとしておけば良いのです。庭作業などをする必要があるのでしたらいつも通りに、どうしても気になるようでしたら、いつもよりはゆっくりした動作で、その作業を行えば良いのです。
シマトネリコに飛来したコガタスズメバチ
わずかな量の樹液を必死に集めていた。
シマトネリコに飛来したキイロスズメバチ
やはり樹液が目的であった。
いずれにしても、他の昆虫が木に傷を付けた結果、そこから樹液がしみ出てきて、それがスズメバチを誘惑するわけです。秋は良い炭水化物源が十分量確保できないことも多いようで、スズメバチはごく僅かの量しかないにも関わらず、それらの樹液を必死に集めているのです。スズメバチを観察してみると、こちらに興味など持っていないことがよくわかるでしょう。