― 形質と遺伝子を繋ぐ ―
カイコは人間が管理しているもの以外には存在せず、世界でも唯一、日本でのみ、系統として体系的に維持・保存されています。膨大な数のカイコが飼育される過程で多数の自然突然変異体が発見され、遺伝学の研究材料として利用されてきました。カイコの変異体が示す形質異常は、色、形、大きさ、発育、行動など多岐にわたります。それらの変異体の原因遺伝子を同定することで、カイコの形質発現を支配する分子機構を解明するための手がかりが得られます。
例えば、透明の皮膚をもつ油蚕(あぶらこ)と呼ばれるカイコは田中義麿(1925)によって発見された変異体で、Z染色体49.6にマップされています。尿酸の合成は正常ですが、尿酸の細胞内蓄積に問題があリます。
od系統ではZ染色体上の遺伝子BmBLOS2(ヒトBLOS2のオーソログ)が欠損しており、それが油蚕形質の原因であることが明らかになりました。BLOS2はメラニン色素含有小胞の形成の第1段階で必要な「lysosome-related organelle complex-1 (BLOC-1) 」のサブユニットです。ヒトではBLOCに異常をきたすと「ヘルマンスキー・パドラック症候群」(HPS)を発症します。カイコのodは尿酸顆粒の形成にかかわる小胞形成に異常があるのだと考えられます。


原因遺伝子の同定方法は様々ですが、最近では次世代シーケンス解析により以前よりも簡単に原因遺伝子を同定可能になっています。原因遺伝子候補が見つかれば、ゲノム編集によって速やかにその遺伝子の機能を検証することが可能です。

