テーマ紹介:乳幼児期の腸内微生物叢の構築と健康との関係に関する研究

赤ちゃんの腸内フローラ:

胎内ではほぼ無菌の腸内への微生物の定着は、赤ちゃんがお母さんの産道を通る時から始まります。生れ出た後は、環境菌も沢山入り込みます。また、お母さんの皮膚からの細菌も多数入り込みます。しかし、そのうち多くの赤ちゃんにおいて、ビフィズス菌と言われる善玉共生菌がメインのフローラが形成されていきます。なぜなら、母乳にはビフィズス菌の大好物のオリゴ糖がいっぱい含まれているからです。我々は、そんな赤ちゃんの腸内フローラと健康の関係に興味を持って研究を進めております。(図1)


出生後の腸内フローラの形成と後のアレルギー発症との関連性に関する研究:

出産後の赤ちゃんに便を負けてもらって、便中の細菌叢を調べました。そして、それから数年間、赤ちゃんにアレルギー発症の有無について報告してもらいました。その結果、後にアレルギーを発症する赤ちゃんの生後1ヶ月時にバクテロイデス属細菌が多いことや、食物アレルギーを発症した赤ちゃんの離乳前に、乳酸菌(ロイコノストク属やペディオコッカス属)やプロピオン酸生産菌(ベイヨネラ属細菌)が少ないこと、離乳後に、ある種のクロストリジウム属細菌(Clostridium paraputrificumなど)が多いことを見出しました。



腸内フローラの発達と腸内胆汁酸の関係:

胆汁酸は食事中の脂肪分を吸収するための重要な消化液です。胆汁酸は肝臓で生産され、成人では約0.5gの胆汁酸が分泌されますが、そのうち95%以上が腸管より再吸収され、体内を再び巡ります。しかし、一部の胆汁酸は、腸内細菌により代謝され、二次胆汁酸に変換されます。二次胆汁酸は一次胆汁酸に比べて毒性が強いと言われ、過剰な二次胆汁酸の生成は、大腸がんのリスクを高めるなど要注意です。一方、最近、胆汁酸はヒトが備えもつ受容体を介して血糖値調節ホルモンの分泌を促すなど、ヒトの体の恒常性にも大きな働きを有していることが分かってきました。我々は、そんな腸内胆汁酸の生後の挙動について、10人の赤ちゃんに協力してもらい、詳細にモニタリングしました。その結果、腸内フローラの胆汁酸代謝能は、生後刻々と変化し、まずは、ビフィズスフローラとともに脱抱合能の獲得し、離乳期にルミノコッカス属細菌の定着とともに善玉二次胆汁酸であるウルソデオキシコール酸生産能を獲得し、離乳して成人型の細菌叢形成と共に二次胆汁酸生産能を獲得することを明らかにしました。乳幼児期においては、腸内フローラの劇的な変化とともに、胆汁酸代謝能も劇的に変化することが示され、これらの変化が、体の成長や健康にどのような影響を与えているか大変興味が持たれるところである。


腸内真菌叢の変化:

ヒトの腸内には細菌だけでなくカビや酵母などの真菌も定着している。しかし、それらについての情報は限られている。そこで我々は、赤ちゃんに協力してもらい、生後2年間赤ちゃんの腸内フローラへの定着を調査した。その結果、生後1ヶ月ごろに環境菌のEupenicillium、生後3ヶ月では皮膚に生息することでよく知られるMalassezia、生後6ヶ月から1年にかけては病原菌として知られるCandidaMeyerozyma、生後2年以降には食品に多く見られるSaccharomycesの順で優占種が変わっていくことを見出した。これらの真菌の定着が赤ちゃんの健康と成長にどの様な影響を与えるか今後注目して調べていきたいと思っております。


発表論文

【原著論文】

  • Tanaka, M., Sanefuji, M., Morokuma, S., Yoden, M., Momoda, R., Sonomoto, K., Ogawa, M., Kato, K., Nakayama, J. The association between gut microbiota development and maturation of intestinal bile acid metabolism in the first 3 y of healthy Japanese infants, (2019) Gut Microbes, 2(11) 205-216. doi:10.1080/19490976.2019.1650997.
  • Tanaka, M., Korenori, Y., Washio, M., Kobayashi, T., Momoda, R., Kiyohara, C., Kuroda, A., Saito, Y., Sonomoto, K., Nakayama, J.* Signatures in the gut microbiota of Japanese infants who developed food allergies in early childhood (2017) FEMS microbiology ecology 93(8) doi:10.1093/femsec/fix099.
  • Nakayama, J.*, Kobayashi, T., Tanaka, S., Korenori, Y., Tateyama, A., Sakamoto, N., Kiyohara, C., Shirakawa, T., Sonomoto, K. Aberrant structures of fecal bacterial community in allergic infants profiled by 16S rRNA gene pyrosequencing (2011) FEMS Immunology and Medical Microbiology 63(3), 397-406. doi:10.1111/j.1574-695X.2011.00872.x.
  • Tanaka, S., Kobayashi, T., Songjinda, P., Tateyama, A., Tsubouchi, M., Kiyohara, C., Shirakawa, T., Sonomoto, K., Nakayama, J.* Influence of antibiotic exposure in the early postnatal period on the development of intestinal microbiota (2009) FEMS Immunology and Medical Microbiology 56(1), 80-87. doi:10.1111/j.1574-695X.2009.00553.x.
  • Songjinda, P., Nakayama, J.*, Tateyama, A., Tanaka, S., Tsubouchi, M., Kiyohara, C., Shirakawa, T., Sonomoto, K. Differences in developing intestinal microbiota between allergic and non-allergic infants: A pilot study in Japan (2007) Bioscience, Biotechnology and Biochemistry 71(9), 2338-2342. doi:10.1271/bbb.70154.
  • Songjinda, P., Nakayama, J.*, Kuroki, Y., Tanaka, S., Fukuda, S., Kiyohara, C., Yamamoto, T., Izuchi, K., Shirakawa, T., Sonomoto, K. Molecular monitoring of the developmental bacterial community in the gastrointestinal tract of Japanese infants (2005) Bioscience, Biotechnology and Biochemistry 69(3), 638-641. doi:10.1271/bbb.69.638.

  • 【総説】

  • Tanaka, M., Nakayama, J. Development of the gut microbiota in infancy and its impact on health in later life. (2017) Allergology International, 66(4), 515-522.doi:10.1016/j.alit.2017.07.010

  • メンバー紹介・研究テーマ

    【2020年度】

    三島梨子(博士1年)・乳幼児期の腸内真菌叢に関する研究
    清野峻彦(修士1年)・乳幼児腸内細菌叢のメタゲノム解析