発酵食品をモデルにした複合微生物系の研究 (大城助教) 

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「土壌環境微生物学研究室」で発酵食品を研究する意義


これまでの研究

1. 乳酸菌と酵母から成る発酵菌コミュニティの変遷に規則性を発見
 パンの伝統製法では、sourdoughと呼ばれる、水で練った穀物粉中に自然形成された乳酸菌と酵母のコミュニティ(構成菌種は数種程度)がパン生地の発酵スターターに使われます。パン屋はsourdoughを水で練った穀物粉に加えて発酵させることを日常的に繰り返して、毎日のパン作りに使うsourdoughの量を確保します(継代)。この継代の過程で乳酸菌-酵母コミュニティが変遷することが経験的に知られていましたが、コミュニティの変遷がどのように進行するかは不明でした。そこで16S rRNA遺伝子アンプリコン解析などを駆使してsourdoughのコミュニティを二ヶ月間にわたりモニタリングしたところ、コミュニティの変遷に規則性があることが分かってきました。図1に示すように、小麦粉を水で練って継代を始めるとWeissella属などの第1乳酸菌が細菌コミュニティ内で優勢化し、腐敗細菌を駆逐して発酵が始まります。すると第1乳酸菌はPediococcus属などの第2乳酸菌と交代するかのように減少を始め、このタイミングを待ち構えていたかのように 酵母が出現して乳酸菌-酵母コミュニティが形成されます。さらに継代を続けると第3乳酸菌が細菌コミュニティ内で優勢化していきます。コミュニティの変遷に連動して発酵代謝物(風味成分)が変化がすることも示唆されており、発酵菌コミュニティのコントロールは発酵のコントロールに重要であると考えられます。(Oshiro et al., 2019, Oshiro et al., 2021)


図1 規則的な変遷現象の発見


2. 乳酸菌コミュニティの変遷の一部にsourdough環境のpHが関与
 乳酸菌は乳酸を主体とした生成有機酸を細胞外へ排出するため、生育環境のpHが低下することが知られています。この環境pHの低下がsourdoughの微生物コミュニティを変遷させる要因となっているのではないかと考え、pHを調整したin vitro培地を用いて、sourdoughの乳酸菌コミュニティにpHがどのように影響を及ぼすかを検証しました。結果、乳酸発酵によって到達するpH 4.5の酸性環境で乳酸菌コミュニティの変遷の一部が再現されましたが、環境pHのみで変遷の全てを説明することはできませんでした。また、環境pHは乳酸菌が生成する乳酸量に影響を与えることが実験的に示されました。微生物コミュニテイの変遷にはpH以外の因子が関与していることが示唆されます。(Oshiro et al., 2020)


3. 乳酸菌と酵母の相互作用からコミュニティの形成・変遷に迫る~その1
 Sourdoughでは主糖のマルトースが乳酸菌-酵母間相互作用の鍵を握るとされています。例えばマルトースを資化する乳酸菌とマルトースを資化しないKazachstania属の酵母は、糖の競合を回避することで共生関係を築くとされています。しかし実際のsourdoughから高頻度で見つかるのはマルトース資化性酵母のSaccharomyces cerevisiaeです。Sourdough環境のS. cerevisiaeは乳酸菌とマルトースを競合し得るにも関わらず乳酸菌と共にコミュニティを形成しているのです。不思議ですよね。本研究ではsourdoughに含まれる糖4種をさまざまに資化する乳酸菌とマルトース資化性酵母S. cerevisiaeの2菌をin vitro系で共培養して、この謎に迫りました。その結果、4種の糖の内でマルトース資化の優先順位が低い、またはマルトースをほとんど資化しない乳酸菌と酵母S. cerevisiaeは共存し得ることが分かってきました。マルトース資化性酵母と乳酸菌の共存においても、やはりマルトースの資化性が鍵を握っているようです。しかし残念なことに、本研究で実施した2菌共存実験の結果は、sourdoughのコミュニティの変遷から想定された乳酸菌と酵母の共存関係とは矛盾していました。Sourdoughの微生物コミュニティの形成や変遷に微生物間相互作用は寄与しているのか?3菌種以上の乳酸菌-酵母コミュニティにおける微生物間相互作用を評価していく必要がありそうです。(Oshiro et al., 2021)


こちらもご参考ください。
researchmap
乳酸菌研究の異分野融合と複合微生物工学アプローチ
微生物叢と化学成分の2か月に渡る緻密な追跡によるサワードウの継代過程の実態解明



当研究グループが目指していること
 伝統発酵食品の複合微生物系の実態(生態)を精微に観察し、未だ科学的に説明がされていない(不思議な!?面白い!?ワクワクする!?)微生物現象の発見を目指しています。そして、その微生物現象を群集構造レベルから分子レベルに至るまで幅広い解像度で深く理解する研究を目指しています。
 現在は発酵食品の中でも、世界の国々で主食となっているパンの伝統発酵(sourdough)を主な対象にしています。










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連絡先
大城麦人
oshiro[at]agr.kyushu-u.ac.jp