研究内容

 地球が自転している影響で、地球に生息する多くに生物は約24時間周期で刻まれる概日時計(体内時計)を持ち、重要な生理機能を環境の日内変動に適応させています。脳内の視交叉上核と呼ばれるマスター時計がホルモンおよび神経経路を介して全身のリズム調節を統御しています。概日リズムの乱れは様々な疾患のリスクになることが知られています。さらに、この時計は地球の公転によって生じる日照時間(日長)の読み取りに非常に重要です。この時計調節および測時の巧みな仕組みや、その仕組みの破綻による様々な影響を理解することは、家畜・家禽の生産性を高めるのみならず、環境の影響を受ける疾病の治療法の開発にもつながります。

緑内障発症に重要な眼圧の日内変動機構と生活習慣との関係解明

 緑内障は日本では失明原因第1位の眼疾患で、加齢に伴い増加し、2040年には世界中で1億人以上が罹患すると考えられていますが、予防や根治の方法は未だ確立されていません。視野が一部欠損しても、片目で補ってしまうため自覚症状がなく、気づいた時には悪化していることもあり、新たな予防方法や検査方法の開発だけでなく副作用の少ない治療薬の開発が喫緊の課題になっています。緑内障発症機構が分かれば、緑内障の初期段階での異常マーカーの発見にもつながり、新たな治療薬の開発にも期待できます。

1. 眼圧が日内変動する仕組み

 緑内障発症に重要な目の硬さ(眼圧)は、眼房水産生と排水のバランスにより形成され約24時間の概日リズムを示します。昼行性夜行性ともに夜間眼圧が上昇することは知られていますが、詳しい仕組みは分かっていません。我々のこれまでの研究で日内変動する交感神経ノルアドレナリン(NE)とストレスホルモン副腎皮質グルココルチコイド(GC)は眼圧リズムを生み出すことが分かりましたが、詳しい仕組みは不明でした。そこで、我々は細胞やマウスを用いてNEとGCによる眼房水産生排出制御機構と眼圧リズム形成の仕組みの解明を目指しています。

2. 生活習慣と緑内障

 先進国では高齢化が加速する中で、生活の質を維持しつつ国力や労働力を保つためには、極力医療に頼らない生活習慣の改善により我々自身の健康寿命の延長に努めることが必要となります。そこで我々は、緑内障発症の予防につながる睡眠・食事・ストレス・運動などの生活習慣や、リスクを高める生活習慣を、ヒトのBIG データからデータサイエンス技術を駆使して解明し、医学への応用を目指しています。

3. 栄養素と緑内障

 特定の食事やサプリメントは眼圧上昇が抑制され緑内障が予防できる可能性が示唆されています。しかし、詳しい仕組みは不明であり、眼圧抑制に効果的な栄養素が調べつくされているわけではありません。そこで、我々は細胞やマウス、およびヒトのBIGデータを用いて食品の栄養素に着目し眼圧低下や緑内障予防につながる栄養素・化合物を探し出し、その詳細な仕組みを明らかにすることを目指しています。食生活の改善で健康寿命の延長につながることが期待できます。

松果体の生理機能の解明

 睡眠ホルモンとして知られる松果体のメラトニンは体内リズム調節だけでなく、昼行性夜行性ともに夜間分泌され季節の測時機構における重要性は分かっています。しかし、それ以外の生理機能への影響は良く分かっていません。さらにメラトニン以外の松果体液性因子も合成されているにもかかわらずそれらの機能もよく分かっていません。そこでメラトニン産生の有無を比較検討しやすいマウス系統を用いて、体内時計、神経発達、行動、情動・気分、知覚機能に及ぼす松果体の生理機能制御の全容を解明することを目指しています。

九州大学大学院農学研究院

代謝・行動制御学研究分野

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