抗がん剤と低分子化フコイダンの併用

抗がん剤の多くは、がん細胞に活性酸素を浴びせて殺そうとするものです。「低分子化フコイダンの三大作用」>「活性酸素の消去作用」ページで、低分子化フコイダンには活性酸素の消去作用があると解説しました。ということは抗がん剤とフコイダンを併用した場合、中和しあって、抗がん剤の効果が薄れるのではないかと懸念されます。ところが低分子化フコイダンを使っている医師たちからは「抗がん剤とフコイダンを併用すると、治療効果が格段にアップする」という報告が寄せられています。その臨床例を紹介しましょう。

2009年春、当時76歳の男性は肺がんと診断され、7月から抗がん剤(タキソテール)治療を受けました。年齢的にも副作用がきつく、ほかの手立てはないかと家族がセカンドオピニオンを求め、福岡の別の病院を訪れました。その医師が薦めたのが低分子化フコイダンです。同月10日から抗がん剤とともに低分子化フコイダンを飲用。1日300mLを飲み続けたところ、2週間後には腫瘍マーカーが正常値に戻りました。1カ月後の画像検査では当初6cmの腫瘍が著しい縮小を示し、2010年1月現在でも小康状態を保っていました。

医師は「低分子化フコイダンの何らかの作用で抗がん剤の効果が向上したのではないか」と推察しました。医学的な根拠は不明なままですが、先にご紹介したように、低分子化フコイダンにはアポトーシス誘導作用に加え、免疫力増強作用もあります。そのため「副作用が緩和され、食欲もわいて、がんと向かい合う気力が芽生えるのだろう」、多くの医師たちはそんな漠然とした因果関係を考えていたようです。

試験で判明した併用のメリット

抗がん剤と低分子化フコイダンの併用により、なぜ抗がん効果が増強するのか。科学的な裏付けを求め、私たちはトリパンブルーによる死細胞染色法、細胞周期解析法(サブG1解析)という2つの方法で併用試験を行いました。使用した抗がん剤はシスプラチンとマイトマイシンCです。シスプラチンは数多くのがんに有効性が認められている白金製剤で、現在の抗がん剤治療の中心的な役割を果たしています。しかし、激しい副作用があり、深刻な場合は腎臓機能に障害をもたらします。また、抗がん性抗生物質のマイトマイシンCはDNAの分裂阻止やDNAの複製を阻害し、抗がん作用を発揮します。副作用としては骨髄抑制が他の抗がん剤と比べて起こりやすく、感染症や貧血、出血傾向に対する注意が必要です。軽度の場合が多いものの腎障害も起こりやすくなります。

まず、がん細胞(HT1080細胞)に濃度を変えたシスプラチンと低分子化フコイダンを加え、がん細胞がアポトーシスを起こす割合を調べてみました。すると、低分子化フコイダンを加えていない場合に比べ、2倍強のアポトーシス誘導作用があることがわかりました。

がん細胞(HT1080細胞)に及ぼす低分子化フコイダンの抗がん剤による細胞死誘導増強効果

一方、正常細胞(TIG-1)のアポトーシス誘導は抑制しています。

がん細胞(HT1080細胞)に及ぼす低分子化フコイダンの 抗がん剤による細胞死誘導増強効果2

つまり、低分子化フコイダンは抗がん剤シスプラチンによるがん細胞のアポトーシスを促進し、正常細胞へのダメージを抑制する作用があるということが見えてきました。

また、マイトマイシンと低分子化フコイダンとの併用試験においても同様の結果になっています。

正常細胞(T1G-1)に及ぼす低分子化フコイダンの抗がん剤による細胞死抑制効果

抗がん剤の最大の難点は正常な細胞にまでダメージを与え、激しい副作用があることです。吐き気、食欲不振、脱毛などが起こり、心身ともに大きな打撃を受ける患者さんもいます。しかし、低分子化フコイダンと併用することでアポトーシス誘導作用が増強されるということは、服用する抗がん剤の量を今より減らすことができます。その分、心身へのダメージも軽減できると考えられます。

がん細胞だけに作用し、激しい副作用がなく、体の免疫力もそこなわない。「そんな抗がん剤があれば」と現代医学の医師たちも願ってきたわけです。抗がん剤にしか目を向けてこなかった医師たちに対しても低分子化フコイダンが受け入れられる素地は大きくなると思います。

がんというしたたかな病に立ち向かうには、こちらも固定観念にとらわれず、あらゆる方策を練る必要があります。西洋医学だけでなく、東洋医学も含めたさまざまな代替医療を取り入れ、お互いの長所を活かした治療・ケアをしようという考えが「統合医療」です。抗がん剤と低分子化フコイダンによる相乗効果は、まさに統合医療の真骨頂ではないでしょうか。今後も研究を進め、具体的な治療法として確立していきたいと考えています。

正常細胞とがん細胞を識別する低分子化フコイダン

さまざまな研究の末に開発された抗がん剤でも、正常細胞とがん細胞を識別するのは困難です。しかし、海藻由来の低分子化フコイダンはがん細胞だけに作用します。この特異的なメカニズムについて解説をしておきたいと思います。

少し専門的になりますが、これは2010年9月の第69回日本癌学会学術総会で私たちが発表しています。

正常な細胞ががん細胞に変化する過程で何が起こるか。糖鎖合成経路に変化が起こります。

糖鎖とは各細胞をつなぐネットワークのようなものです。

そのとき、表面糖鎖の構造が変わるため、糖鎖認識タンパク質のレクチンの一種であるコンカナバリンA(Con A)に対する結合性が変化します。このことは古くから知られています。

私たちはフコイダン処理により、多くのがん細胞でのCon A結合性の度合いが高まるとともに、がん細胞のアポトーシス死が増強されることを見出しました。

作用機構を調べたところ、正常細胞ががん化する過程で共通して増強される酵素のひとつであるN−アセチルグルコサミン転移酵素(GnT-V)の遺伝子発現がフコイダンにより顕著に抑制されることがわかりました。また、GnT-Vの遺伝子発現を調節するタンパク質Ets-1の遺伝子発現も顕著に抑制されました。

GnT-VもEts-1もがん細胞の転移・浸潤などの悪性の性質に深く関わっていることから注目されているタンパク質です。

このことから、低分子化フコイダンががん細胞の異常な糖鎖合成経路を抑制し、表面糖鎖に変化を起こしてアポトーシスを起こしやすくしていると思われます。

低分子化フコイダンに多量に含まれるフコースは表面糖鎖の働きを正常に保つうえでも、がん細胞を特異的に殺す腫瘍免疫でも、大変重要な働きをしていることが知られています。正常細胞ではもともとGnT-VおよびEts-1の遺伝子発現は低く抑えられており、低分子化フコイダンを作用させても大きな変化は認められませんでした。

がん細胞と正常細胞の違いを見わけるのは科学的には非常に難しいことですが、低分子化フコイダンは細胞を識別し、選択性を発揮して変異した細胞だけをアポトーシスに導いていきます。

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