天敵昆虫学研究室

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いろいろな天敵昆虫

天敵昆虫のいろいろ

美麗種キイロテントウ

春菊の花を訪れていたキイロテントウ。テントウムシも様々で、この種は鮮やかなレモン色をしています。西日本では極めて普通の種です。

食性はちょっと変わっていて、うどん粉病菌(カビの仲間)を食べます。テントウムシだからといってアブラムシの捕食者であるとは限らないわけですね。

つまり、キイロテントウはカビの天敵ですが、病害の防除資材として利用できるかどうかは十分に検討されていません。

害虫を食べるタカラダニ

シャリンバイ(車輪梅)の害虫であるキジラミを捕食し、体液を吸っているタカラダニの一種。

タカラダニの仲間は印象的な動き(ちょこまか歩き回る)をする上に、色彩的にもとても目立つため、一部の種は不快害虫扱いされています。

しかし写真のように、野外では他の微少昆虫(害虫を含む)を捕らえている場面に時々出くわします。

飛翔するマメヒラタアブ

マメヒラタアブは、都市部でも普通に観察できる捕食性のハエ目(双翅目)昆虫です。

飛翔能力が高く、空中でホバリング(飛びながら空中にとどまること)している個体をよく見かけます。

成虫は花の蜜や花粉を食べるのですが、幼虫はアブラムシを捕食します。農生態系においてはアブラムシの天敵として重要な役割を果たしています。

タコゾウムシを捕食するナナホシテントウ

侵入害虫アルファルファタコゾウムシの幼虫を食べているナナホシテントウ。背中に雄を背負いながらの捕食シーンです。

本種はアブラムシの捕食者として有名ですが、アブラムシ以外の昆虫も食べます。タコゾウムシの幼虫は好みの餌ではないようですが、レンゲ畑では時々このような場面に出くわします。

アザミウマを捕らえたヒメハナカメムシ

大害虫ミナミキイロアザミウマを捕食しているオウシュウヒメハナカメムシ。

カメムシといえば「臭いムシ」「不快な害虫」というイメージがあるでしょうが、カメムシの仲間には捕食性の仲間も多数あり、ヒメハナカメムシのように農生態系において重要な天敵となっているグループがあります。

ヒメハナカメムシ類は体長2ミリ程度と小型ですが、害虫アザミウマの防除に役立っています。

導入天敵のいろいろ

オウシュウヒメハナカメムシ

ヨーロッパ原産のヒメハナカメムシの一種。

ヨーロッパではミカンキイロアザミウマなどの防除に効果を発揮していて、日本への導入が検討されている捕食性天敵です。日本へ導入する前に、わが国の生態系への悪影響がないかどうか十分に検討する必要があります。

ベダリアテントウ

ベダリアテントウは、イセリアカイガラムシという大害虫の最有力天敵です。もともとは日本にはいませんでしたが、イセリアカイガラムシを防除するため、海外から導入されました。

イセリアカイガラムシはオーストラリア原産の外来害虫で、かつてはミカンや街路樹などに打撃を与えていました。しかし、今ではこの害虫はたまに見かける程度で、もはや害虫とは呼べないレベルにまで数が減りました。このカイガラムシが減少した主な理由がベダリアテントウにあります。

このテントウムシもまたオーストラリア原産で、イセリアカイガラムシだけを捕食します(スペシャリストと呼びます)。

スペシャリストの捕食者ゆえに、ターゲットのカイガラムシを探し出す能力に長け、瞬く間にわが国で大発生していたイセリアカイガラムシを駆逐してくれました。そのおかげで、イセリアカイガラムシ防除のために化学農薬を使用する必要はなくなったのです。一方、獲物であるカイガラムシが激減したため、この有名なテントウムシを探すのも一苦労となってしまいました。

ヨーロッパトビチビアメバチ

ヨーロッパトビチビアメバチは、ユーラシア大陸原産のヒメバチ科寄生蜂です。この蜂もまたアルファルファタコゾウムシという甲虫だけに寄生します。

この性質と高い探索能力に注目し、日本に侵入してレンゲの大害虫へと変身した外来種アルファルファタコゾウムシを防除すべく、ヨーロッパトビチビアメバチが日本に導入されました。

この寄生蜂が定着し個体数を増した地域では、ゾウムシの発生量は減り、ピンクに染まるレンゲ畑も復活しました。現在もこの寄生蜂をさらに効果的に利用するための研究が続けられています。

画像は調査地のある北九州市門司区で撮影しました。レンゲの花の基部にたまった水(?)を舐めている雄個体です。

珍しい天敵昆虫

ミカドテントウ

ミカドテントウは、テントウムシ科に属するなかなか珍しい甲虫です。本州と九州のごく限られた場所から記録されており、その生態の一部が判明するまで、「極めて稀な」テントウムシでした。

現在では、本種がイチイガシという常緑の高木に依存しており、イチイガシの高いところを捕虫網で掬い捕りすると得られることが明らかになっています。何を餌としているかは判然としませんが、おそらくイチイガシにつくカイガラムシあたりを捕食するのではないでしょうか。

さて、九州大学のある福岡市はかなりの大都市であると信じますが、大都市の割に自然がよく残っています。画像のミカドテントウは、自宅近くの公園(福岡市東区)を子供と散歩しているときに偶然見つけたものです。この公園にはイチイガシはありませんが、すぐ近くの神社にはたくさんあります。おそらくその辺りから飛来分散してきたものでしょう。

それにしてもイチイガシの木以外の場所で本種を発見できるとは思いもしませんでした。おもちゃに寄こせとねだる子供(3才)の手を払いのけて撮影。

キアシルリオオズカッコウ

頭でっかちで筒状の体をしたこの奇妙な甲虫は、キアシルリオオズカッコウというカッコウムシ科の捕食性昆虫です。文献によると、木材の害虫であるキクイムシ類の天敵とされています。

恐ろしく広い分布域を持つ種類で、マダガスカルあたりから東南アジアやミクロネシアを経て、わが国(屋久島以南)に達しています。記録上は、屋久島、奄美大島、徳之島から知られていますが、画像の個体は沖縄本島産です。

一般にかなり稀な捕食性甲虫で、土場周辺を飛翔している個体などが少数採集されているに過ぎません。

ところで、日本では獲物の記録はありませんが、撮影した個体はクロヒメナガシンクイというナガシンクイムシ科の食材性甲虫を利用していました。ナガシンクイムシは材に丸い穴をあけますが、その中にお尻からするりと入っていき、シンクイムシの穴を隠れ家として使うことも発見。筒状の体は、まさにシンクイムシの穴に入り込むために進化したのだということが良く理解できました。

カッコウムシ科の甲虫は捕食性天敵として重要であると思われる種が含まれますが、日本産カッコウムシの生態や生活史はほとんど不明です。キアシルリオオズカッコウについてもいくつかの採集記録があるに過ぎません。本種についての行動や獲物についての知見が若干ですが得られたというわけです。

侵入してきた天敵と害虫

ヤツボシハンミョウ

ヤツボシハンミョウは、台湾が原産地のとても美麗な捕食性甲虫です。東南アジア・中国南部に同種とされることもある種がいますが、少なくとも亜種レベルで異なります。

もともとはわが国にはいなかったハンミョウですが、最近になって西表島で多数採集されるようになりました。長距離飛翔能力はない本種が西表に突如として現れた経緯は一応不明です(自然分布の可能性はありません)。

発見当初は農地周辺のみに見られていましたが、2008年の調査で、自然度の高い場所へも進出しはじめていることを確認しました。

ハンミョウは害虫防除にほとんど(いや、おそらく全く)貢献しません。むしろ西表土着のハンミョウ類と競合しないかと心配しています。大型美麗のハンミョウではありますが、生態学的な見地からは本種の定着・分布拡大は歓迎できるものではありません。

ハイイロテントウ

もはや沖縄では最普通種のテントウムシの一種であるハイイロテントウですが、もともとは日本にいなかった種類です。北米が原産地らしく、米軍の活動に伴って沖縄に侵入したのではと言われています。

色彩的にテントウムシっぽくないなと感じるかもしれません。

ギンネムという外来植物につくギンネムキジラミという、これまた外来の昆虫を好んで捕食します(アブラムシはむしろ好みの餌ではない)。また柑橘類のキジラミも捕食してくれます。

ところで、ギンネムは中南米原産で沖縄には緑肥、土壌流出防止、緑化などの目的で導入されましたが、あまりにも旺盛な増殖力により人里周辺で圧倒的優占種となっていることも普通であり、沖縄(八重山なども含む)の固有の植物相や昆虫相に明らかに負の影響を及ぼしています。一方、ギンネムキジラミはギンネムの繁殖に大打撃を与えることがあるそうです。 

ギンネムを有用植物と見なすならギンネムキジラミは害虫ですが、侵略的外来種と考えるなら(有害外来植物を攻撃する)「有益な」食植性昆虫となります。するとギンネムキジラミを食うハイイロテントウはどうなるのでしょうね?

いずれにしても、外来植物に外来の植食性昆虫がいて、さらに外来の捕食性甲虫がいるという関係が成立しているわけです。

天敵昆虫学研究室

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