研究の面白さ

私は高校時代からずっと生物が好きでした。高校の生物の教科書の副読本だった生物資料集を大切にしており、大学院の時も、アメリカで博士研究員として就職が決まった時も引っ越しの荷物に入れ持ち歩いていました。しかし今思えばそれは「研究が面白い」と同義ではありませんでした。

私が研究の本当の面白さに気が付いたのは九州大学に着任してからです。遡ってみると、大学院時代は博士号取得まで不安でした。実験結果に一喜一憂しながらも自分の将来を憂い毎日研究していました。アメリカでの博士研究員時代は毎年の契約更新に向けて、必死で実験を行っていて本当の意味で研究を楽しむ余裕はありませんでした。その期間をくぐり抜け、九州大学でようやく研究室を主宰者(Principal Investigator)として自分で研究を展開する責任と自由が与えられました。

博士課程での医学応用を視点した平滑筋研究、アメリカ時代の培ったモデル生物を使ったin vivoでの動物発生研究を基に九州大学では食肉応用を目指した骨格筋、脂肪細胞の可塑性研究を行いました。
これまでの自分の研究実績を融合させ 2021年には動物生命科学研究室を立ち上げ、ニワトリ胚モデルを用いた平滑筋細胞系譜の解明、培養肉応用を目指した食肉「種」細胞研究をスタートさせました。これまでの研究の積み重ねの甲斐もあり興味深く研究の面白さに溢れる多くのデータが見つかってきています。

「研究が面白い」とはどんな時に感じるのでしょうか?私の場合、ディスカッションにより研究プロジェクトが展開する瞬間です。同じ実験結果を見ているのに、自分とは異なる考察に触れた時、自分の頭の中に新たなアイデアと、検証したいことが数えきれないほど浮かび広がっていきます。

それは学会等の専門性の高いディスカッションよりも、学部生や大学院生が一つの実験結果に対してふと漏らす一言の場合がほとんどです。私にとって自分だけでは思いつかなかった研究の展開が浮かび上がる貴重な瞬間です。

学生が発する思いがけないふとした一言は実験データを自分なりに考えていないと出てこない言葉ばかりです。私はそれが学生が研究を面白いと思っていることの証であると考えています。ほとんどの学生はその事に気がついていませんが自分なりに研究結果を考察し「この結果はこのように解釈できるかもしれない」と伝えてくる瞬間に立ち会えることは教員冥利に尽きると言えます。

研究室メンバーと世界中まだ誰も気が付いていない生命現象を一番に発見できた喜びを分かち合うことに幸せを感じます。同時に皆さんが研究を面白いと思える環境を維持しその喜びを共有するためにに日々自分のできる事に挑戦しています。