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ツマアカスズメバチの女王蜂を確認[2014年4月]

2014年4月22~23日に対馬へ行く機会があり、空いた時間を利用してスズメバチの発生状況を見てきました。

夏から秋にかけて活発に活動していたスズメバチはその後、新女王蜂だけが生き残り、冬を越し、翌年の春に目覚めます。つまり、ちょうど今頃は、越冬に成功した女王蜂たちが活動を開始している時期にあたるのです。

春になると女王蜂たちは一人暮らしを本格的に始め、自ら新しい巣を立ち上げます。スズメバチの他にもアシナガバチなどの活動も始まります。

クロスズメバチの女王(峰町三根にて)

巣場所を探している。

フタモンアシナガバチの女王(上県町仁田にて)

立ち上げたばかりの巣を守っている。

効率的に駆除する方法を考える

今回の調査項目は、ツマアカスズメバチの女王蜂の活動状況、発生量、蜂洞(ニホンミツバチの巣)への飛来の有無、そしてミツバチの捕食行動の確認、などです。

特に関心があったのは、「ツマアカスズメバチの女王がどの程度蜂洞に飛来するのか」でした。女王蜂が頻繁にやってくるのであれば、それらを片っ端から捕殺するなり駆除するなどしてツマアカスズメバチの発生数を減らすことができるかもしれないからです。また、ミツバチの巣から出る匂い物質を利用したトラップ作製も可能になるでしょう。

以前の調査で、働き蜂がミツバチの巣前に飛来することは確認していますが、働き蜂がたくさん飛来するからといって、女王蜂も同様の行動をとるとは限りません。

ツマアカスズメバチの女王蜂は敏捷で臆病?

蜂洞への飛来

今回の調査では、ツマアカスズメバチ女王が蜂洞あるいはその周辺に飛来するのを7例確認しました。それ以外にも、飛翔中のものを3個体発見しました。

以下の2枚の写真は、上県町にて蜂洞前に飛来したツマアカスズメバチの女王蜂です。時間をおいて見つけましたが、同じ個体だと思われます。

女王蜂の行動や反応を実際に観察して分かったことは、働き蜂のように容易くは捕殺できない可能性があるということです。

在来のスズメバチ、例えばオオスズメバチやキイロスズメバチは、対馬にも普通に産します(対馬にはオオスズメバチがいないと思っている人が多数いるようですが、それは完全な誤解です。多産します)。それらの女王蜂は働き蜂よりも一見して大きく、ぱっと見ただけで区別可能です。そして、体が大きいせいか、俊敏な動きはできません。飛び方はむしろ遅く、羽音は非常に低いです。その体と羽音の大きさに加え、堂々とした飛び方は重厚で圧倒されます。

一方、ツマアカスズメバチの女王はそれらの在来種とは異なり、働き蜂たちとさほど体長差がありません。その分、女王蜂とは思えないほどにとても俊敏でした。むしろ臆病で、人間の接近に敏感に反応し、素早く飛び去ってしまいました。

ミツバチの巣へも敏捷に飛び回りながら飛来し、他の土着種が直線的か緩やかな弧を描くような感じで、容易に目で追える速度で飛来するのとは異なっていました。また、スズメバチの女王にしては羽音が高く、そのすばしっこい動きから、羽の上下運動が圧倒的に速いことが予想されます。在来のスズメバチの女王とはかなり異質な感じがしました。

さらに興味深いことに、蜂洞前で人間が動いていると、それを直ちに察知して、蜂洞に立ち寄ることなく飛び去ってしまったのではないかと思われた例が2回ありました。また近づいてその行動を観察しようとすると、やはりこちらの動きを敏感に察知し、あっという間に飛び去ってしまいました。一度飛び立たれると、捕虫網で捕獲するのは困難でした(つまり逃げられたってことなのですが)。

まだ7例しか女王蜂の行動を観察しておらず、しかも少なくとも数例は同一個体と思われるので断言はできませんが、これは在来のスズメバチの女王の鈍くささとはまるで異次元の反応です。

ツマアカスズメバチの働き蜂もとても俊敏なのですが、蜂洞前に飛来するとホバリングするなど、とても緩やかに飛んでいて、発見することも簡単です。また人の接近にもかなり無頓着なため、数十センチの距離でじっくり観察することもできます。近づいてたたき落とすことも容易です。実際、蜂洞を管理している人の多くが、蜂洞前に飛来したツマアカスズメバチの働き蜂をそうやってたくさん駆除しています。

しかしながら女王蜂の場合、「近づいてたたき落とす」ことは難しいのではないでしょうか。観察数が少なすぎるので、再び対馬に赴いて女王蜂の行動などを観察し、以上の点が確かなのか確認したいと思います。

ミツバチへの影響

ニホンミツバチ(峰町三根にて)

2匹の働き蜂と1匹の雄バチ。蜂洞前で活発に活動する。

1例だけですが、ツマアカスズメバチの女王がニホンミツバチの働き蜂を捕獲し持ち去るのを観察しました。

対馬ではニホンミツバチを利用した伝統的な養蜂が盛んです。ツマアカスズメバチはこのミツバチを好みの獲物とするため問題視されています。

ミツバチへの影響がどの程度かは今後慎重に調べる必要がありますが、現時点までの知見でいうと、ツマアカスズメバチによるニホンミツバチへの悪影響はかなり限定的で、ミツバチの巣の減少そのものにはほぼ関係がありません

その根拠として、「ツマアカスズメバチが侵入している地域とまだ未侵入の地域を比較しても、蜂洞に巣くったミツバチ巣数には差がないこと」や「未侵入域でもミツバチの失踪が多数認められること」などを挙げることができます。対馬でのニホンミツバチの減少は、病原生物の蔓延などが主要因として考えられます。

発生量

ツマアカスズメバチの女王を確認したのは、豊玉町の1地点と上県町の2地点でした。それ以外の場所でも短時間探しましたが、発見には至りませんでした。

概して個体数が少ないわけですが、これは女王蜂の個体密度そのものが在来のスズメバチを含めそんなに多いわけではないからです。しかし、「1匹の女王蜂=1つの巣=夏の終わりには1,000匹を軽く超える働き蜂」となるわけで、夏になる頃からツマアカスズメバチを見かけることが激増することになります。

ツマアカスズメバチ以外では、オオスズメバチ、コガタスズメバチ、キイロスズメバチ、そしてクロスズメバチの女王蜂を確認しました。その個体数としては、ツマアカ、オオスズメ、キイロ、コガタスズメの順番でした。ただし、去年ツマアカスズメバチが多かった場所を中心に観察しての結果ですので、対馬全土の割合を表しているわけではありません。

土着のスズメバチ類の女王蜂密度とツマアカスズメバチの女王蜂密度がどの程度違うのかも確かめたかったのですが、時間があまりにも少なくて十分な結論は得られませんでした。

スズメバチ科のもう一つのグループであるアシナガバチ類では、キアシナガバチ、フタモンアシナガバチ、キボシアシナガバチ、ヤマトアシナガバチを確認しました。

この時期は様々な種類の花が咲くので、蜂たちも蜜や花粉を集めに訪花するのですが、花だけでなくカラスノエンドウの花外蜜腺などにも惹かれてやってきます。花外蜜腺からは甘い蜜が出るので、それを好んで舐めます。今回はカラスノエンドウに飛来する蜂類を多数見かけました

ニホンミツバチ(峰町三根にて)

カラスノエンドウ花外蜜腺の蜜を舐めている。

ヤマトアシナガバチ女王(上県町佐護にて)

カラスノエンドウ花外蜜腺の蜜を舐めている。

謝辞

上県町の中山で偶然「NPO法人 ツシマヤマネコを守る会」の山村辰美さんに会い、一緒にツマアカスズメバチの様子を見て回りました。山村さんにはいろいろと蜂洞のことでお話を聞かせていただきました。感謝申し上げます。

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