センター長ご挨拶

新たな熱帯農学研究センターに向けて

九州大学熱帯農学研究センターでは、これまで熱帯アジアにおける研究・教育に貢献するとともに、これら地域の国々の大学支援にJICAプロジェクトとして深く関わり続けてきました。とくに1980年代後半から2000年代前半にかけて、バングラデシュの農業科学専攻の大学院の設置やベトナム・ハノイ農業大学(現:ベトナム国立農業大学)強化に積極的に携わってきました。それ以降もICTを用いた農業情報支援など、JICAや様々なスキームを通した国際協力・国際共同研究に参画してきました。

熱帯農学研究センターは1975年に設置され、設立から50年を迎えました。この間、20世紀と21世紀のそれぞれで四半世紀の時を過ごし、とくに設立10年後から現在までの国際協力への参画は、日本の農学系の大学の中でも積極的に参画し、貢献してきたと自負しております。一方で、この間に熱帯農学をめぐる環境も大きく変わりしました。地球温暖化や自然環境の破壊、過剰な開発といった地球環境問題は、気候変動枠組条約と生物多様性条約の成立を促しました。これらの条約は、熱帯地域の自然環境や農業生産活動に持続可能な利用を促すものであり、熱帯アジアの持続的な農業の在り方や自然資源管理に大きな影響を与えました。また近年では、「誰一人取り残さない」SDGs(持続可能な開発目標)の考え方が広く浸透し、熱帯地域の農林業をめぐる環境だけではなく、貧困や飢餓についても真剣に考える基盤が醸成されています。このような中、熱帯アジアにおいておも、周辺の環境、人々、そして資源の取り扱いも、複雑化、多様化してきました。熱帯アジアの農林業をめぐる課題は非常に複雑であり、単一の学問分野での対応には限界があります。生物学、工学、社会科学、政治学など分野横断型のアプローチを組み合わせることで新しいアイデアや革新的な解決策が生まれます。フィールドの実態に即した研究が求められる熱帯農学も、さまざまな分野を包含した研究アプローチが求められます。

私たち熱帯農学研究センターは、センター設立の創生期(1975年~1980年代後半)から国際協力を重点的に行っていた時期(1980年代後半~2010年代)を経て、新たなフェーズ(2020年代以降)である「Version 3」の段階に入っています。また2021年11月、九州大学では未来の困難な課題への解決策を示すための「総合知」で社会変革を牽引する「Vision 2030」を策定、その展開を進めています。私たち九州大学熱帯農学研究センターも、持続可能な社会の発展と人々の多様な幸せ(=well-being)を実現できる社会に貢献するため、引き続き研究・教育・国際協力を展開していく所存です。

今後も、学内外の皆さんと協力関係を構築しつつ、活動を展開してまいります。
これからの九州大学熱帯農学研究センターを、引き続きよろしくお願いいたします。

百村 帝彦 教授
九州大学熱帯農学研究センター長