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ツマアカスズメバチ

2012年夏頃、今後日本への侵入を警戒すべき種として紹介したページです。2013~2014年に行った長崎県対馬での現地調査の結果や、基礎知識と今後の対策など、対馬に侵入したツマアカスズメバチに関する情報は、「スズメバチ事典」内の「対馬に侵入!ツマアカスズメバチ」の項をご覧ください。

和名 ツマアカスズメバチ
学名 Vespa velutina Lepeletier, 1836
英名 Asian yellow-legged hornet
Asian hornet
原産地 インドネシア(ジャワ島)

分類

韓国・大邱市で見られたツマアカスズメバチ

ジャワ島を基産地として、ル・プルティエー(Le Peletier)が1836年に記載した中型のスズメバチです。

体全体に黒っぽく、腹部先端部のみが赤褐色であることから『ツマアカ』と名付けられました。種小名の『velutina』は『ビロード状の』という意味です。本種の画像を見れば、和名の由来も学名の由来もよく理解できます。

日本に入ってしまう可能性が高いのは、ssp. nigrithorax (『黒い胸』の意)という亜種です。亜種名 nigrithorax は、デュ・ビュイソン(du Buysson)が1905年に命名しました(記載時は variety)。

分布

西はパキスタンから、東南アジア各国を経て中国南部や台湾に達する広域に分布します。香港では以前はさほど多い種ではなかったようですが、近年、公園や農村地域で個体数が増大したといいます。

形態

女王蜂の体長は3センチに達しますが、働き蜂の多くは2センチ程度です。

全体的に非常に黒っぽく見えます。日本で見かけるスズメバチのイメージからすると、あまりスズメバチっぽくない色彩をしています。東アジアに生息するスズメバチの中では、その特徴的な斑紋パターンから同定は容易だと思います。

習性

営巣

女王蜂は茂みや土中の閉鎖的な環境に巣を設けますが、その後、巣の拡大のため、樹上の比較的高い場所に引っ越しをするそうです。

食性

キイロスズメバチやコガタスズメバチ同様に様々な昆虫を獲物とし、空中を飛翔中のアブやトンボやミツバチをよく捕らえます。

インドネシア・バリ島産の原名亜種

ミツバチの働き蜂は好みの獲物です。ミツバチの巣の入り口付近でホバリング(空中で待機)し、帰巣してきた飛翔中のミツバチを巣前で捕獲します。

インドネシア・バリ島産の原名亜種

帰巣してきた飛翔中のミツバチのみを狙い、巣の入り口付近に静止している個体は襲いません。
 

インドネシア・バリ島産の原名亜種

ブラシノキの花に飛来した個体。甘い蜜を舐めにしばしば訪花します。
 

ベトナム・ダラット産の亜種 varians

ヌルデの花に飛来する各種昆虫類を物色中。捕獲した獲物は幼虫の餌(タンパク源)として巣に持ち帰ります。

ベトナム・ダラット産の亜種 varians

ヌルデ花上でハナバチの仲間を捕獲した瞬間。
 

ベトナム・ハノイ近郊産の亜種 varians

花上(樹種不明)で昆虫を捕獲し、噛み砕いている個体。この後、巣へと持ち帰ります。

攻撃性

攻撃的な種で、巣を刺激した場合、執拗に追いかけてきます。台湾、マレーシア、インドネシアでは刺傷による死者が出ています。

ただ、働き蜂が増える時期の営巣場所が容易に近づけない所(木の高い場所など)であるため、さほど脅威となるスズメバチではないそうです。一方、侵入先の韓国の都市部ではマンションなどの壁に営巣する例が報告されており、そのような場合には注意が必要でしょう。

外来スズメバチとして

本種は、将来、日本(特に北部九州)に侵入し問題化する恐れがあるスズメバチであると判断します。

ヨーロッパでは

アジアに広く分布する種ですが、2005年にフランスでも記録されました。2004年以前に、中国から輸入される陶器に紛れてボルドーの町(Bordeaux:フランス南西部の河港都市で、ボルドーワインが有名)に侵入したと考えられています。それ以降、急激に分布を拡大し、2010年までにフランス南部から西部とスペイン北部までの広い地域に広がりました。2012年現在、ポルトガル、ベルギー、ドイツにまで達しています。

ミツバチの成虫を狩ることが確認されていますが、ミツバチの幼虫を含む巣全体への攻撃行動はなく、養蜂業への打撃はさほど心配する必要がないように思えます。

フランス(最初の侵入先)やイギリス(まだ侵入していないが時間の問題と考えれている)では本種による生態系への悪影響、刺傷被害の拡大、養蜂業への被害などに対する注意喚起が行われています。なおヨーロッパへ侵入したのは亜種 ssp. nigrithorax に該当するものです。

韓国では

また、ほぼ同時期の2000年代初頭(記録としては2003年)に韓国へも侵入し、現在では韓国南東部で広く観察されるようになりました。

樹液をなめるツマアカスズメバチ
(韓国・大邱市)

韓国では、分布の拡大とともに個体数が急激に増加し、地域によっては土着のスズメバチ(特にケブカスズメバチ = キイロスズメバチ)を押しのけて優占種となっています。分布の拡大と個体数の増大には都市化が関係しており、都市近郊で特に密度が高くなっているようです。

韓国に侵入したものも亜種 ssp. nigrithorax に該当し、中国から移入したと考えられています。ツマアカスズメバチが韓国で最初に記録されたのは釜山で、ここを中心として分布が拡大していますが、ここは貿易の盛んな港町であることで有名です。近年、特に中国との貿易が増大しており、同国からの輸入品あるいは船舶に紛れ込んで侵入したのでしょう。

韓国のスズメバチ相は日本のスズメバチ相ととてもよく似ていて、韓国土着のスズメバチ6種は全て日本本土のものと共通の種(一部亜種が異なる)です。また、韓国の平野から低山地帯のスズメバチ生息環境は、日本の里山や農村部の環境そっくりです。

韓国で今も進行中のツマアカスズメバチの分布拡大と土着種の減少は、他人事ではありません。もし本種が日本に侵入した場合、韓国と同様の現象が起こる可能性があります。韓国の釜山は福岡市と船で結ばれています。もちろん飛行機も往来しています。両都市の距離は非常に短く、人と物の行き来がとても盛んです。ツマアカスズメバチが九州北部に侵入してしまう可能性は、無視できないレベルで存在するわけです。

他のスズメバチの侵入例

スズメバチの仲間が何らかの形で持ち込まれた結果、外来種として急激に分布を拡大した例は他にもあります。例えば、オーストラリアとニュージーランドにおける Vespula germanica です。

また、貨物に紛れ侵入したものの、検疫時に発見され、定着を阻止されたスズメバチも少なくありません。オーストラリアではツマグロスズメバチ、モンスズメバチ、オオスズメバチが検疫の際、外来種として発見されています。

スズメバチ類は、生態系の上位に属する広食性の捕食性天敵であるため、生態系への影響が大きい生物であると思われます。人への直接的な加害だけでなく、生態系への悪影響を考慮すれば、外来スズメバチの侵入と定着はなんとしても阻止しなければなりません。

亜種

ツマアカスズメバチの亜種構成は以下の通りです。

  1. ssp. velutina Lepeletier(原名亜種)

    分布:ジャワ島、バリ島(?)

  2. ssp. pruthii van der Vecht

    分布:インド(カシミール)、パキスタン

  3. ssp. auraria Smith

    分布:インド、ネパール、ミャンマー(東北)、中国(雲南)

  4. ssp. variana van der Vecht

    分布:ミャンマー(カチン、シャン、タウンジー)

  5. ssp. nigrithorax du Buysson

    分布:インド(北東部)、中国、ブータン、フランス(移入)、ベルギー、スペイン、ポルトガル(以上、移入先からの分布拡大)、韓国(移入)、日本(2012年移入)

  6. ssp. flavitarsus Sonan

    分布:台湾

  7. ssp. divergens Perez

    分布:マレーシア

  8. ssp. karnyi van der Vecht

    分布:スマトラ

  9. ssp. ardens du Buysson

    分布:スンバワ島、ロンボク島

  10. ssp. floresiana van der Vecht

    分布:フローレス島

  11. ssp. sumbana van der Vecht

    分布:スンバ島

  12. ssp. celebensis van der Vecht

    分布:スラウェシ

  13. ssp. variana van der Vecht

    分布:タイ、ラオス、ベトナム

  14. ssp. timorensis van der Vecht

    分布:チモール島

関連リンク